一冊の本が世界を変革することがある。小さな出版革命はやがて大地に広がっていく。

一冊の本が世界を変革することがある。小さな出版革命はやがて大地に広がっていく。
「誰でも本が作れる、誰でも本が発行できる、誰でも出版社が作れる」この小さな革命を生起させんとする「草の葉ライブラリー」が放つ第三弾。時代に沈みかけた下町をよみがえらせた山崎範子の「谷根千ワンダーランド」と高尾五郎「クリスマスの贈り物」の登場。

。タ刊を配らなければならないのだ。                         新聞配達って、雨がめちゃはげしく降っている日とか、この間のようにどかっと雪が降った朝などちょっと大変だけど、仕事そのものはたいしたことはない。それよりも一番つらいのは、なにかいつも時間を気にしていなければいけないというか、いつも時間にしばられているということだった。放課後なんかも友達とおしやべりに熱中していても、すぐに時間がたって、
「あ、大変、もう時間だ!」
と言って、大急ぎで家に帰るのだ。
夜もまた見たいテレビが九時からとか十時からとかにある。それを見たいと思うけれど、明日また四時に起きなければならないと思うと、ついがまんしてしまう。だから新聞が休みの日などは、ああ、明日は休みなんだと思うと、からだの底からにこにこしてしまうのだった。
私がどうして新聞配達などはじめたかと言うと、一年生のとき、ともえちゃんという子と同じクラスだった。放課後、みんなでぺちゃくちゃと話していたら、突然ともえちゃんが、いま何時、いま何時って騷ぐので、みんなで職員室の前にある時計をみにいった。すると四時だったのだ。ともえちゃんはいま私がよくやっているように、
「あ、大変、時間だ!」
と叫んであわてて帰ろうとする。私はどうして時間なのときいたら、なんでも最近配達する人がいなくて、私がバイトで新聞を配っていると言った。
そのとき私は突然、ともえちゃんに、私にもそのバイトさせてと言ったのだ。そしてその日のうちに、ともえちゃんのお父さんに会って、新聞配達することにきめてしまった。
その夜、仕事から帰ってきた母に私は言った。
「私、あしたからアルバイトするから」
母はその意味がよくわからなかったからか、軽くうけ流すかのように、
「なんのバイトするわけなの」
「新聞配達の」
母ははじめて事態の大きさに驚くと、
「どうしてそんなことはじめるの。そんなことできないわよ。あなたはまだ中学一年生になったばかりでしょう」
「でも、ともえちゃんだってしてるんだから、私にだってできるわけよ」
母はそのときなんだか急に顔をくもらせたかと思うと、その目に涙をにじませている。私の家には父がいなかった。父は三年前になくなったのだ。だから私の家は、母がパートで働いているお金で生活をしている。だからなのか母はしめった声でこう言った。
「私の家は貧乏だけど、でもまだよっちゃんに働いてもらうほど、おちぶれてないと思うけど」
私はなんだか母を悲しませまいと、あわてて言った。
「そうじゃないのよ。ほら、お父さんの美術館の話」
「うん、うん」
「あれって、ものすごくお金がかかるでしょう。私もいまからお金をためなくちゃいけないと思うのよ。ともえちゃんの話をきいて、ああ、そうなんだ、もう私にだって、お金をかせげるんだってことに気づいたわけだから」
それは母と私と妹、つまり私の一家の夢だった。どこか森のなかに小さな美術館をつくるというのが。
でもそのとき私がアルバイトをしたいと思ったのは、やっぱりなんといってもお小遣いがほしかったからだ。中学生ともなるといろいろとお金がかかる。シャーペンとか、手帳とか、ノートとか。もちろん洋服だとかCDとか。原宿なんかにいくと買いたいグッズがいろいろとある。でもそんなことは母にたのめないことだから、やっぱり自分でバイトする以外にないと思っていたのだ。
でも私がその新聞配達のバイトではじめてお金をもらったとき、それははるかにお小遣いの範囲をこえていたから、みんな母に差し出すと、母