一冊の本が世界を変革することがある。小さな出版革命はやがて大地に広がっていく。

一冊の本が世界を変革することがある。小さな出版革命はやがて大地に広がっていく。
「誰でも本が作れる、誰でも本が発行できる、誰でも出版社が作れる」この小さな革命を生起させんとする「草の葉ライブラリー」が放つ第三弾。時代に沈みかけた下町をよみがえらせた山崎範子の「谷根千ワンダーランド」と高尾五郎「クリスマスの贈り物」の登場。

ダムに組み立ててみた。すでに遠くに去りつつある時代に書かれた文章であり、いずれも短文であり、その分量も二百五十ページにすぎない。しかしこの一冊のなかに山崎範子の本質というものが縫い込められている。彼女がどのように生きてきたのか、そしていまなお何をめざして生きているかが。

「谷根千」という小さな季刊雑誌から森まゆみという読書社会のスターが誕生したが、その影に隠れている山崎範子の存在を多くの人に知ってもらいたいと、『note』というウェッブサイトに、彼女のエッセイやコラムやルポをいくつか打ち込んだが、その中の一つに「日本最大の編集者」とタイトルをつけてみた。掛け値なしに山崎範子にそういう冠をのせるのは、この本を手にした人にはうなずかれるだろう。

「谷根千」は、谷中、根津、千駄木という地域に発行される百ページにも満たぬ小雑誌だが、発行されるまでにはさまざまな膨大な作業がある。取材からはじまって、原稿を書き、写真を収集し、それを割付していく。さらに毎号、百近い店舗から広告をとってくる営業活動があり、刷り上がってまるで壁のように積み上げられる一万部もの雑誌を、店頭販売してくれる三百近くもの書店や商店に、自転車の荷台に「谷根千」を山と積みこんで配布していく。

自転車操業のなか、精神活動、肉体活動、営業活動、奉仕活動、イベント活動、社会活動、金銭活動、子育て活動、内部争乱活動と、その全身をフル回転させ、時代の底に沈んでいくような町を見事よみがえらせていったのだ。こういう活動を二十五年も営々として展開していった山崎を「日本最大の編集者」と名付けたっていいではないか。

彼女はまた斬新な言葉を紡ぎだす一級のコラムニストであり、エッセイシストでもある。この本のなかに三編の「生き物の飼い方」があるが、こんな生き物の飼い方を描いた人は誰もいない。あるいは冒頭に編んだ「スナック美奈子での五日間」は、『note』につぎのような前文を書いて打ち込んでみた。

「これは極上のルポである。山崎範子のコラムニストとしての、あるいはエッセイシストとしての才気がほとばしっている。スナック稼業を、美奈子ママの人生を、その店に集う人々をとらえる視点の深さ、そして文章の構成力。たとえば、修業する目的が三つあるとして、冒頭でその二つの目的を書くが、三つ目は伏せられている。その三つ目が最終日に明かされるのだ。そのシーンにであったとき、私たちの心のなかに鐘が鳴り渡る。たった五日間の体験だが、山崎範子の柔らかい心と、繊細な感受性と、それを確かなタッチと文章力で描くこのルポは、短編小説のように仕上がっている。読む者を幸福にさせる」

クリスマスの贈り物  高尾五郎

イエロー・ブリック・ロード
日本の川下り
北風号の冒険
決闘
クリスマスの贈り物
ようこそ、ピーターラピットの国へ
風と雲のアジテーターと日本のテロリスト
青い海、青い島

クリスマスの贈り物

私の朝ははやい。四時に起きなくてはいけないのだ。まだ人々が眠りについている町のなかを自転車をとばして販売店にむかう。私の受持ちは荏原五丁目から六丁目にかけて五十軒。全部を配り終わるのが七時半ごろだった。それから急いで家にもどると、ご飯をたべて学校にいく。そしてまた午後、学校から帰るとすぐに販売店にいく