一冊の本が世界を変革することがある。小さな出版革命はやがて大地に広がっていく。

一冊の本が世界を変革することがある。小さな出版革命はやがて大地に広がっていく。
「誰でも本が作れる、誰でも本が発行できる、誰でも出版社が作れる」この小さな革命を生起させんとする「草の葉ライブラリー」が放つ第三弾。時代に沈みかけた下町をよみがえらせた山崎範子の「谷根千ワンダーランド」と高尾五郎「クリスマスの贈り物」の登場。

トな反応(つまり苦情など)が多い根津のこと、心なしか配達の手が震える。

12月27日
気温は低いが、風もなくまあまあの配達日和。朝一番で自転車を走らせる。新年を前にして谷中墓地は墓参りの人で賑やかだ。あの世の人にもこざっぱりと新年を迎えてもらおうという、その心づかいがうれしい。昨年の夏の終わりに亡くなった三原家の高尾重子さんを偲んで『谷根千』を読んでくださる方もあり。上野桜木の桃林堂で屠蘇散を、東大前のニイミ書店でのし餅をいただく。正月が近い。とっぷり陽が暮れたころ、駒込のフタバ書店に到肴。ここの本揃えはユニークで主張がある。今回入口には、「店長が選ぶ今年のベストテン」コーナーが新設され、堂々とコメント付きで並べてある。おお、その十冊のうち六冊までがわたしの今年のベストテンと、一緒じゃないか、こんなに気のあう人は初めてだぞ、と思いながら一位に輝く未読の『ビート・オブ・ハート』(ビリー・レッツ著、文春文庫)を買って帰った。

12月28日
朝、本郷から神保町へ向かう。本郷通りの棚澤書店のおじさんが店頭ではたきをかけている。ここの建物は明治三十八年にはすでに建っていたという立派な出桁造りで、最近、建物を見にくる人が多くなったんだそうだ。「みんなが見てくれるから、今までは月に一度の掃除を、週に一、二回拭くようにしているんだ。ほら看板もきれいでしょう」という。今日は年賀状書きで大忙しとのこと。落第横丁にあるペリカン書店の品川力さんは腰を痛めて臥せていらした。神保町すずらん通りのアクセス(地方小出版流通センターの本屋さん)で、百冊の包みをドサツとおろす。ここの棚を物色するのは毎度の楽しみで。本日の掘り出しものはA5判の雑誌「中南米マガジン」五百円。ラテン音楽の紹介雑誌だが、中米料理店の店当てクイズ、ラテンの心を持つ女シリーズなどヘンナ記事も多い。『谷根千』とサイズも薄さも同じこの雑誌は、匂いも同じで見るからにマイナー、思わず創刊号から最新の四号までを購入。夕方、12月26日に閉店した小石川の児童書の店ピッピで最後の清算。この小さな書店と谷根千は、手を取り合って仕事をすることはなかったが、お互いの存在が支えで、見ている方向はいつも一緒だったと思う(少なくとも私はそうだった)。ピッピ最後の営業日は満員の大盛況で、閉店時間が迫るとカウントダウンが始まり、ゼロのかけ声で写真のフラッシュがいくつもたかれたんだそうだ。私を含めたこれだけのファンが経営難の力になれなかったのが淋しい。

PM10時、夜の店の配達に繰り出す。昼間は開いていないスナックや居酒屋に『谷根千』を置いて回る。大晦日まで頑張んなくちゃ、というのと今晩で今年は終わり、という店が半々くらいか。
千駄木の居酒屋兆治に行くとマスターが一人酒。朝七時までやっているこの店は十二時すぎから混んでくるという。「この間TVの取材でなぎら健壱がきたよ。谷中銀座の鳥肉店の小林さんと。すずらん通りの惣菜店のキョシさんとうち。うちのお汁粉サワー・青汁サワー・味噌汁サワーが珍しくてうまいからってさ」という。「ちょっと気持ちの悪い飲み物ですね」と私。
夜の本郷に写植カバが鳴く

A五判四十八頁、ペラペラのこれが雑誌「谷根千」の基本型。創刊号は八頁。二号目でグンと飛躍して三十二頁。そして四十号、四十八号とジワジワと厚くした。三十六号「学童疎開」の特集で思いが余り五十四頁。四十号の十周年特集は編集人三人のくだらない懐占談を載せて七十二頁になった。基