アジア象と象を守る人々の物語を通して自然、動物、人のつながりを見直す映画の制作

アジア象と象を守る人々の物語を通して自然、動物、人のつながりを見直す映画の制作
コロナ禍で観光客が消えたタイ。象の観光施設は閉鎖が続き約3700頭の象が飢餓や病気で苦しんでいる。タイの観光を支える象は苦難の運命を生きてきた。その象たちを懸命に守る人々がいる。言葉をもたない「エレファントの叫び」に耳を傾け、象と人間の物語をドキュメントすることで自然、動物、人のつながりを見直す。

の保護活動を始め、タイ国内の象観光関係者から大反発を受けつつも海外から支援を得て象のために闘い続けてきたレックさん。(Photo:Save Elephant Foundation)

北タイ山間部の谷間に広がる100ヘクタールのエレファント・ネーチャーパーク。2009年、私たちが最初に訪ねた時、ケガや高齢で観光現場から救助保護された象が30頭ほど暮らしていた。

2009年、レックさんのオフィスで見た子象の調教映像はあまりに残酷で衝撃的でした。以来、私たちは観光業で働くアジア象の問題や彼女の活動に注目し始めます。同じ頃、日本では絵を描くチェンマイの象がテレビやCMで紹介されて話題を呼んでいました。チェンマイに暮らす私たちが知った象の苦難と、鼻に筆を持たされて絵を描く象の姿は表裏一体なのに、それを知る人は少ないという日本の現実…。日本人として一体何ができるのか…。私たちの中でそんな問いかけが始まりますが、当時はまだ漠然としたものでした。

エレファントキャンプ(象観光施設)で鎖に繋がれた生後2ヶ月の子象。母象も係留されていた。

動物保護やアニマルウェルフェア(動物福祉)の意識が広がる欧米を中心に近年、動物園、サーカス、動物ショーのあり方が問題視されています。そんな中、日本の動物園や水族館も今、転換期を迎えています。親子の絆が強く、群れで暮らすのが象の本来の姿です。しかし観光ビジネスのために母子が引き離され、過酷な訓練を受け、観光の「仕事」を終えると鎖で繋がれるアジア象たち…。タイの象乗りやショーも海外のメディアから長年、批判されてきました。その結果、タイでは象に乗らずにその生態をゆっくり観察する新しい観光スタイルが4、5年前から増え始めています。そうした動きを20年かけて醸成してきたのが動物保護活動家のレックさんです。

象の自然な姿を観察できる小さな保護施設「カレン・エレファントホーム」の兄弟象、クンムン(左)と弟のドド。クンムンは子象時代に曲芸で働き、実は日本の象の映画にも出演した。

コロナ禍で病気や飢餓に苦しむ3700頭のアジア象たち

苦難の道を生きてきた象たちを今、さらに苦しめているのが新型コロナの影響です。観光収入を失ったエレファントキャンプ(象観光施設)の大半が、2021年10月現在も閉鎖されたままです。政府からの援助はほとんどなく、象の飼育師たちも失業状態が続いています。3700頭余りと推定される「観光象」の多くが鎖で繋がれ、十分な餌やケアもなく飢餓や病気で苦しんでいます。国内外の複数の団体がアジア象の支援に動いており、レックさんが創設したセーブエレファント財団も保護活動の先頭を走っています。自分が代表を務めるエレファント・ネーチャーパークも打撃を受けているにもかかわらず、彼女はセーブエレファント財団を通じて海外、国内から寄付を集めて物販や啓蒙活動も展開し、タイ各地の象や飼育師の支援に乗り出します。2020年4月から2021年10月まで同財団がエレファント・ネーチャーパークに搬送保護した象は70頭、餌や援助金で支援した象は1899頭、飼育師は1601人に上ります。

閉鎖の続くエレファントキャンプでは飼育師も失職、離職し、象の飼育管理状況も悪化している。象たちは運動量も餌の量も限定され、死亡するケースも少なくない。

この子は2歳で母象と引き離され曲芸を仕込まれた。同じ施設内の母象に引き合わせても、お互いに親子だともう認識できないという。1日数時間散歩できるが、残りはずっと鎖に繋がれたままだ。

人に虐待された象た