した。さらに昨年春からは粘土を使うようになりました。漆を塗った麻布を粘土に直接張り込んでいく古典的な脱乾漆は、興福寺(奈良)の阿修羅像に代表される仏像作りに用いられる技法です。
これまで、仏像作りはあくまで仕事でした。
しかし、目が見えなくなったことで心から「祈り」をかたちにしたくなりました。
それは、自分本位の制作に対する懺悔の表れなのかもしれない。
自分のためではなく、人に作品を届けたいと思うようになりました。
私は、不完全燃焼のある仕事を抱えていました。
それは、上毛新聞社発行の文化情報誌『上州風』(1999-2010年・季刊)の29号から32号まで連載した『祈りのかたち』が休刊で中断してしまったことです。
内容は榛名神社随神像や小金銅仏、山王廃寺塑像、養蚕の神様、十一面観音像といった、県内各地のお像を紹介するエッセーでした。
次第に目が見なくなっていく自分がいま、あらためて本を作ること。
たとえ自分の本が完成したとしても、それを読めないかもしれない。
それでも、「祈り」をかたちにすることへの欲求は日増しに高まっていきました。
10年以上の時を経て、そして再び『祈りのかたち』は動き出したのです。
▲しじみの家族PAPA(脱乾漆)
▲『祈りのかたち』を掲載していた『上州風』。休刊となり連載は中断のままとなった
今回制作の書籍『祈りのかたち』は以下のような概要になっています。
B5判 上製本 【LOW VISION冊子と一般用冊子をセットにした特殊製本】
・LOW VISION冊子(白文字/中綴じ、本文92頁)
・一般用冊子(黒文字/コデックス装、本文136頁)
上毛新聞社刊/著者 三輪途道
定価:2,500円
[内容]
榛名神社随神像(つぶやき「随神像の修理」)/山王廃寺塑像(つぶやき「破片からのメッセージ」)/十一面観音像(つぶやき「悟りと飾り」)/小金銅仏(つぶやき「渡来人と辛科神社」)/社寺彫刻(つぶやき「職人けんちやんの話」)/宮田不動と奪衣婆(つぶやき「手は眼だ」)/養蚕の神様(つぶやき「蚕神猫を作りました」)/白衣大観音(つぶやき「白衣観音物語」)
かねてから取材していた群馬県内の仏像や神像、石仏に焦点をあて、その魅力と保存修理の現状を伝えます。
▲(左)日輪寺 十一面観音像(群馬県指定重要文化財)前橋市文化財保護課提供 像高128・5㎝ (右上)榛名神社随神門 左大神像 吽形/像高:141cm*首が落ち込んでいるため正確な計測不能 髪際高:126cm 画像提供:東京芸術大学大学院美術研究科文化財保存学研究室 (右下)山王廃寺出土塑像頭部 (群馬県指定重要文化財)白鳳時代 かみつけの里博物館提供 8.7×4.5×4.5cm
▲(左)砥石神社の奪衣婆に触れる著者 (右)2020年東京芸術大学大学院美術研究科文化財保存学研究室の調査
LOW VISION BOOK
LOW VISION (ロウ・ビジョン)。聞き慣れない言葉だと思います。
LOW VISIONとは、視覚に高度な障害があるものの、完全に視力を失ってはいない状態を指す英語です。
今現在の、私です。30代後半から徐々に視野が欠ける目の病を患い、約15年の経過の中で、新聞や一般書籍など活字を読むことは難しくなりました。
もともと読書好きな私は、「読む」ということに愛着を感じています。物が見えにくくなっても、白と黒の光の差異で何とか文字の認識はできます。点字や音声に翻訳された点字本や音読本類も