ブレンドにこだわったコーヒー。そして家庭的な手料理のランチは、毎日通ってもあきない優しい味。必ず野菜も入ってヘルシーです。
近くにお勤めでランチに通う女性は「このあたりのお店はほとんど回ってみた上でここに通っています。食事が美味しいことに加えて、紅茶をリーフで入れてくれることが決め手でした」と話します。ランチの飲み物でも選べる紅茶は、6種類のリーフをブレンドし、華やかで甘みを感じる美味しさです。
「夫が亡くなって、家にひとり。もう10年くらいになるかしら。でも、ここに来ると、他の常連さんが気にかけてくれて。美味しいご飯も食べられて、いいですよ」
と話す高齢の女性も、常連さんです。
カウンターでは常連さんが和やかに会話し、2階では主婦や会社員、若者のグループがランチを味わい、のんびり雰囲気を楽しんでいます。
2階は暖炉もあり、とても落ち着きます
この居心地のいい空間は、貴重なコミュニティの場でもあるのです。
●存続の危機…建物の老朽化
そんな穏やかなこの店を、存続の危機が次々と襲います。
まずは2年前、マスターが亡くなったこと。マスターがドリンクを、ママさんが料理やスイーツを担当して支えあってきたのですが…。マスターは、若いころからのコーヒー好きが高じて喫茶店を始めただけあって「コーヒーを入れるのがとても上手だった」とママさんは振り返ります。お話を伺った時に居合わせた常連さんも「カウンターに立つマスターは、雰囲気があったね」と懐かしんでいました。
2015年に北海道新聞室蘭版に掲載された写真に、コーヒーを入れるマスターの在りし日の姿が。
2015/08/18北海道新聞朝刊 室蘭・胆振版
<西いぶり 喫茶店めぐり>1
北海道新聞社許諾D2104-2107-00023608
それでも、ママさんは一人で店に立ち、常連さんやドラマロケ地巡りの観光客、昔ながらの喫茶店の雰囲気を求めるお客さんを迎え続けました。
ママさんと常連さんたち
一人になってからは、常連さんがママさんを気遣い、食器を下げたり片付けたり、買い物に行く間に店番をしたり…何とかやっていける、と思ったのもつかの間。
新型コロナウイルス感染症が広まり、特に仕事や観光で室蘭に訪れる方がほとんどいなくなりました。売上は一時、半分くらいにまで落ち込みました。
さらに、建物の老朽化が進み、港町特有の強い海風や、雨漏り、すが漏りで傷みが激しくなっています。朝、店に入ると、床が一面水浸しだったことも。よく見ると、壁の間から外が見える個所も。 特に、今使っていない室外機が置かれている入り口の天井はゆがみ、見積もりを出してくれた工務店の方に「これだけは、本当にすぐ撤去しないと」と言われています。
また、一人でも店を続けるために、老朽化した流し台などの厨房設備を更新し使いやすく再配置することも必要になりました。しかし、新型コロナウイルス感染拡大防止に伴う出控えで、来店客は減少、売上は低迷し、直す資金がありません。店を開けるほど赤字、という日が続きました。
ママさんはお店をたたむことも考えました。
●みんなの「想い出の場所」を守りたい
しかし、常連さんを中心に、お客さんから
「たくさんの人の想い出が詰まっている店、できる限り続けてほしい」
「この店がなくなったらショックを受ける人が市内外にたくさんいるはず。助けを求めてみては」
「今はクラウドファンディングという仕組みで資金を集めることができるらしい」
と声が上がり、ママさんが、時々来店していたクラウドファンディング