●港町のジャズが似合う喫茶店、英国館
「カフェ英国館」は昭和51年に建てられた、煉瓦の壁が印象的な建物です。当時はデパートや商業施設が立ち並んでいた、街の中心地に隣接。港も近く、船員のお客さんもたくさんいらっしゃったとか。
何回も店主が変わりましたが、シックな煉瓦の壁、2階の暖炉、つややかな木造階段、柔らかく灯るシャンデリアなど、建物や内装は建築当時からほとんど変わりません。
1階カウンターと、2階に上がる階段
近隣の清水ヶ丘高校に通っていた生徒がコーヒーを飲みに来たり、ある時はデートに使ったり、という思い出の場所でもあります。常連のSさんは「40数年前、高校在学中に初めて訪れ、なんと趣のある店かと思いました。10年前に地元に戻り、まだ店があることに感動しました」と語ります。
店の外観
●この建物に呼ばれた…
ママさんこと渡辺由起子さんが、マスターこと夫の勝利さんとこの店を始めて13年目。もともと室蘭出身のママさんは東京で働いていましたが、勝利さんが「退職後は喫茶店を」と希望し、実家のことも気になっていたため、室蘭に戻ってきました。一時期、知人がこの店の営業をしていたこともあり、店舗探しに難儀していた時に店が空いていることを知って「中も見ないで契約した」と言います。
ところがママさんたちが入る前、この店は「飲み屋」として営業していたらしく、壁にはベタベタと演歌歌手のポスターやつまみのメニューが貼られ、床のタイルは割れ、テレビが2台も置かれ…
「本当にひどい状況。泣きながら片付け、掃除をした」と、ママさんは振り返ります。
東京で使っていたという重厚感のあるテーブルや、ホテルから譲り受けた椅子など調度品にも気を配り、マスターと二人で、今の落ち着いた店舗を作り上げました。
2階の席からはシャンデリアも間近に見られます
室蘭は昔ながらの純喫茶が多く、札幌圏からも喫茶店巡りを楽しむ方がいらっしゃる一方で、常連さんが多く、一見さんが踏み入れるには敷居の高い店もあります。そんな中でも英国館は、北海道内の地域情報誌や地元新聞などでも度々紹介されていることもあり、さまざまなお客様が来店し、リピーターとなる市外の方も多くいらっしゃいます。
ママさんは言いました。
「今思うと、建物が助けを求めて私を呼んだんじゃないかって気がするの」
●ロケにも使われた、愛される店
英国館は、2010年放送のドラマ「Mother」のロケに使われました。ドラマ中で、子役だった芦田愛菜さんがクリームソーダを飲むシーンが印象的です。当時英国館のメニューにクリームソーダはなかったのですが、ドラマ放送後にロケ地巡りのお客さんが必ず頼むため、定番メニュー入り。登場人物が座った同じ場所に座って、クリームソーダを頼む方が今でも後を絶ちません。
「Mother」は海外でリメイクされ、観光客が自由に行き来していた2019年ごろは韓国からのお客さんもいらっしゃったとか。
サンフレッチェ広島で活躍した佐藤寿人選手が来店したこともあり、彼のサインやユニフォームも残されています。室蘭で試合や合宿をしたときに訪れたときは、ファンも一緒に訪れ店が満員になるほど。ファンの方が彼の使ったストローまで持ち帰ったとか…。
佐藤寿人選手のサイン入りユニフォーム
●映画「モルエラニの霧の中」も、ここから…
室蘭の美しい風景を舞台に、静かに心揺らす物語を紡いだ、映画「モルエラニの霧の中」(全国各地で上映中)の監督・坪川拓史さんも英国館の常連。監督から英国館への思いを寄せていただき