いまだ希望が見えないシリアの若者に日本で教育の機会を提供したい
■はじめに
はじめまして。パスウェイズ・ジャパン(PJ)代表理事の折居と申します。一生をかけるのなら、何か人のためになる仕事をしたいとの強い思いから、人道支援の仕事に関わり始めて20年近くになります。これまで、NGOの職員として、アフガニスタン、イラン、ヨルダン、ミャンマーで難民や少数民族の支援に関わってきました。
2016年からは、ここ日本でシリア難民の若者を留学生として受け入れ、教育の機会を提供する事業に取り組んでいます。事業立ち上げ当初は、日本における難民支援の実績がある認定NPO法人 難民支援協会に所属していましたが、2021年7月に一般財団法人パスウェイズ・ジャパンとして独立し、事業に取り組んでいます。これまで、24人のシリア難民を留学生として受け入れてきました。
パスウェイズ・ジャパン 代表理事 折居徳正
まずは、PJがこれまで受け入れたシリアの方をお一人紹介させてください。
「私は学ぶために命をかけて逃れてきました。将来は難民一人一人が夢を叶え、望む人生を送れるような手助けをしたい。一般的にシリアでは女性が一人で出歩くことすら難しい。家庭の規範、住んでいる地域などによっても違いますが、女性が手にできる自由は男性と同じではありません。
でも、女の子たちに伝えたい。自分の夢を追いかけていいんだよって。もっと勉強して、多くの人に思いを伝えられる力を持てるようになりたいんです」
プログラム2期生として2018年に来日したシリア出身スザンさんの言葉です。
プログラム2期生のスザンさん。シリアの内戦を逃れ、2018年に来日する。
2011年3月の東日本大震災直後に勃発したシリア内戦で、彼女の自宅が焼かれ、通っていた大学が爆撃されました。隣国トルコに逃れ、内戦で亡くなった父に代わり一家を支えるため、仕事を転々とした経験もあります。
しかし、勉強を続けたいという強い思いを手放すことはしませんでした。日本に留学することは長年の夢だったそうです。避難先のトルコで友人から日本留学のプログラムについて聞き、すぐに応募したスザンさん。来日後、まずは日本語学校に2年間在籍し、現在は、都内の大学院で平和学を学んでいます。
■シリアの今ーいまだ希望が見えない若者たち
2010年に紛争が勃発してすでに10年が経ちますが、いまだ終わりが見えない状況が続いています。数千万人以上の命が奪われ、国民の約半数にあたる660万人が国外に避難しました。その大半は、トルコやレバノンなどの近隣諸国に逃れ、日雇いの仕事などで生計を立てながら、その日暮らしを続けています。多くの難民を受け入れることで物価や家賃が高騰してしまう避難先の国での生活は楽ではありません。教育の機会も乏しく、多くの若者が、家族を支えるために働かざるを得ない状況に置かれています。
もともと高い教育水準を誇っていたシリアですが、度重なる内戦により教育環境が破壊され、何百万人もの子どもたちが学校に通えなくなってしまいました。多くの子どもや若者が、希望する初等教育や高等教育を受けられない状況にいます。中でも高等教育へのアクセスは非常に限られています。
■難民の高等教育へのアクセスはわずか3%
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、世界では36%が高等教育へのアクセスがあるのに対し、難民の場合はわずか3%にとどまっています。”学びたい”という強い希望があっても、「難民」であることが大きな壁になっているのです。
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