地との関係も他者との関係もすでに修復できない。心の中の不安は除かれたことはない。
ある人はなすすべなく見つめ、ある人は自分の信念によって進み続ける。ここでは誰も、何が正しいか、今も今後もわからない。それでもここで生き続けている。
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「Blue Persimmons」シリーズより
この写真プロジェクトは、何か答えを掲示するものではなく、また主義を主張するものではありません。原発事故のことがからむと、政治的な主張や決めつけのストーリーになりがちだと感じていますが、そこから距離を置くことを常に意識しています。原発のことに限らず、世の中の全てのことには答えがなく、何が正しいのかわからないことと思っています。この「Blue Persimmons ー青い柿ー」も、わからない状態の混沌とした福島の状況をそのまま表し、それでも何かが心に残り、何かを考えるきっかけになるべく作っています。
「Blue Persimmons」シリーズより
<「Blue Persimmons」プロジェクトのこれまで>
2011年から撮影は始まり、2021年まで続きました。タイトルの「Blue Persimmons ー青い柿ー」は、廃棄される大量の「柿」と、除染によって福島の至る所に置かれた廃棄物を入れた「青い」フレコンバックから由来しています。
シリーズの一部は2017年に東京国際写真コンペティションを受賞。2019年には東京と大阪のニコンサロンでの写真展で発表されました。
ニコンサロン大阪 展示風景
シンガポール国際写真祭 展示風景
その後も撮影を続け、2020年にはシンガポール国際写真祭で展示。2021年は、韓国のテグ・フォトビエンナーレで展示予定です。
2020年末には、このシリーズはアメリカのユージン・スミス記念基金の主宰するユージン・スミス賞に日本人では初めて選出されました。ユージン・スミスは写真家集団マグナムにも所属した世界で最も著名なドキュメンタリー写真家の一人で、日本でも「水俣」を長く撮影したことで知られています。彼の後に続く写真家を育てるため生まれたこの基金は、毎年世界で優れた作品に同賞を贈っています。
今回の受賞により国際的にもこの作品のことが知られ、このタイミングで写真集を出版することでより世界へ作品が届くことが期待されます。
2年ほど前から写真集制作の準備をはじめ、ハワイで行われたICP(インターナショナル・センター・オブ・フォトグラフィー)のワークショップにて写真集の基本原型を作りました。その後、これまでに素晴らしい写真集を数多く輩出してきた出版社・赤々舎の代表・姫野希美さんに相談をし、一緒に作っていただけることとなりました。現在写真集制作が進んでいます。
<なぜ、福島を続けるのか>
私は東日本大震災後、ずっと東北と福島にこだわってきました。理由のひとつは、震災前の東北を知っていたことです。新聞社勤務時代に3年間仙台に住み、東北6県の取材と撮影を担当し、東北の素朴な自然、人柄、風土や文化の魅力に一気に引き込まれました。個人的な思い入れが理由のひとつです。
もうひとつ特に福島にこだわった理由は、原発事故のことを知れば知るほど、この問題には全ての社会問題に通じる根本的なことが凝縮されていると感じてきたからです。福島を撮ることで、日本のあるいは世界の全ての社会問題のことに通じ、人間というものを見つめ考えることができると思ったからです。
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