私は「希品」でつながる素敵なコミュニティをつくりたい。なぜなら

き出したり、引き上げたりすること。
不安やイライラしたものでなく、あたたかく感謝の詰まった心からくるもの。
そうしたポジティブなエネルギーを人や社会へ還すこと。
それが私の中の、本当の意味のデザインだと確信しています。

私は「価値」というものがよくわからない人間だったので、美大を卒業後、
入社したてのボーナスで、高級レストランへ行ってみました。

食事は毎日行う大切な行為であり、自分の体内に取り入れるという点から、
より感覚的に価値を理解しやすいと考えました。
そんなところへ着ていく服を持っていませんから、
スーツからハンカチまで、全て一から揃えて臨みました。

そして、1回の食事で9万円を使ってみたのです。

その場でおそらく最年少の私は、震えながらフルコースを食べていました。(当時25歳)

私はそこで”真剣”という本当の意味をしりました。
そこに在る全てが真剣で、本物でした。

料理だけではありません。
入り口から席までの案内。食器の繊細さ、置く間隔。提供される水の温度。室内に流れる音の耳触り。声をかけられるタイミング、言葉の選び方。床に敷かれた質の高い絨毯。
それらから生まれる居心地のよさ。幸福感。

とりわけ気になったのが、音楽。ささやくほど小さくて、耳元でポロポロと転がるのです。

それが本当に心地よかった。

そして私は、なぜ「高級レストラン」が成立しているのか気づきました。
そこにいる誰一人、怒鳴っていたり、騒ぎ立てたりしていませんでした。
それで味覚だけでなく、聴覚も心地よくなっていたというわけです。

この時、私は、ここで食べる一口は、店内にいる人たち
全員でつくった味なのだと感動し、とても嬉しい気持ちになったのです。

そして私も、この空間のような、素敵なコミュニティを、
自身の作品を通してつくりたいと思った。

作品を通して豊かな考え方やエネルギーを、人や社会に還し、
受け取った人が隣の人に素敵な影響を与える。
まずはその循環をつくっていきたい。

それが希品をつくる理由です。

わがままかもしれませんが、ふらっと持ち寄った魂では達成できないのです。
生きることに集中し、お互いに認め合い、称え合い、素敵に影響し合いながら
歳を重ねることに惹かれます。
それが人間らしさだと思うからです。

私にとって高級レストランはそこにしかできない真剣の集合でした。
“希品”は、私にしかできないデザインの集合です。
最後の事業判断まで、私が責任を持つことで、はじめて実現できると思っているのです。

端的に、私のこれまでの作品をご紹介させていただきます。

Bio-Vide ~人と生物の距離の再考~

父(山崎政彦)が家畜保険の獣医師であり、本人も家畜への関心が強かったことから、食肉のリサーチを始め、養豚場、と畜場、油脂会社へ足を運び、飼育から解体、骨の行き先までリアリティをもって命の消費への理解を深めた。

豚は食肉だけではなく、口紅や石鹸等の日用品に使用されていることから、「製品には目に見えない命の消費」が多く存在すると考え、生き物の姿形を残した作品群を展開。牛骨を素材に制作したハンガーや、魚の皮を装丁した包丁等のプロセスのほか、落ち葉を固めてテーブルやバッグを作り、朽ちるまで観察した。

「人とモノ」との関係性を「人と生物」に還すこの試みは、トヨタが主催する国際的デザイン賞LEXUS DESIGN AWARD 2016を受賞。73カ国、1,232 作品から選出された。これにより、大学を卒業後まもなくミラノへ招待され、プレゼ