のまちの風景の魅力を再発見していく機会がつくれたならば、「土地」と「風景をつくる新たな担い手」とを結びつけることができるかもしれない。そんな妄想も少しだけしています。
WHY③ 小さな居心地良い空間をつくることを得意とするセルフビルダーがいる
以上の2つの理由だけでは、このプロジェクトを実行に移すことはできなかったはずです。決め手となったのは、今回のモバイルカフェの小屋と周辺とをトータルでデザインし、施工まで担当してくれることになっ〈山村テラス〉の岩下大悟さんの存在でした。(写真提供:山村テラス)
佐久穂町大日向在住の岩下大悟さんは、セルフビルドでオフグリッドの小屋「山村テラス」を施工し、自ら運営されています。かつてフィンランド滞在時にあちらのコテージの文化に影響を受け、2014年に大日向の里山に建てた一棟目を皮切りに、その後「月夜の蚕小屋」(同じく大日向)、「ヨクサルの小屋」(八千穂高原)を続けて作り出されています。
昨年5月、そんな岩下さんに「軽トラックの荷台に小屋を載せて外でカフェをやりたい」という突飛なアイデアを話したところ、おおいに共感してもらい、本業の合間を縫ってこのプロジェクトの背骨となる、「飲食提供可能な動く小屋」のデザインと施工を請け負ってもらえることになりました。(写真提供:山村テラス)
たくさんの魅力が詰まった〈山村テラス〉ですが、今回のプロジェクトに特に関わる部分に絞って僕なりにその魅力を一つ挙げさせてもらうと、それは「建物と周辺環境との関係性の素晴らしさ」です。あの「感じ」を言葉でうまく表現するのは難しいのですが、空間の外部(周囲の自然環境)と、空間の内部(建物の外装と内装を含んだ存在全体)の関係性が絶妙に調和していて、それが〈山村テラス〉のあたり一体を包み込む独特の居心地の良さにつながっている、そう感じています。そしてそれは大前提として、滞在者の過ごしやすさやシーンの演出を徹底的に考え、それにあわせた丁寧な作り込みがあってのことだと思います。
オフィシャルな説明としてただ一言「宿泊できる小さな空間」とだけ表現されています。僕の上の説明が蛇足でしかないことがわかりますが、今こうしてあらためて考えてみても、モバイルカフェのデザインに大悟さんほどぴったりな人はいませんでした。
佐久穂町の皆さんとチームを組み、アイデアを形に
「動くカフェ」・・・まだ生煮え段階のアイデアを話したところ、面白がってくれ、それぞれ本業があるなか一緒にやってみようと決めてくれたのが「オープンエアな佐久穂の風景をつくるグループ」の皆さんです。
[運営チーム]
この春からはじまるモバイルカフェの運営は、佐久穂町内の3つの飲食店の3人の店主を中心に共同で行っていきます。
左から、豊田陽介さん(ヒゲめがね)、塚原(mikko)、足立伸哉さん(キッチンえみゅー)
〈キッチンえみゅー〉店主の足立伸哉さん。「まちのごはん屋さん」として、2015年から佐久穂町で営業され、野菜、魚、肉など、できるかぎり地元の食材を使ったイタリアンや洋食、定食メニューを提供し、まちの皆さんから親しまれ続けています。飲食店の現場で20年以上活躍されている大先輩です。幾度となく経験したこのまちの寒い冬も、えみゅーでの温かい歓待と美味しいご飯があったから乗り切れたことは数知れません。
2020年6月にオープンしたばかりの〈カレー屋ヒゲめがね〉店主の豊田陽介さん。スパイスカレー専門店として、佐久穂町内の東町商店街にあるかつてスナックだった店舗をリノベーションし、スパイスと地域