舞台は昭和11年の台中市。ひっそりと咲く少女たちの恋台湾発の百合漫画『綺譚花物語』を翻訳出版したい!

舞台は昭和11年の台中市。ひっそりと咲く少女たちの恋台湾発の百合漫画『綺譚花物語』を翻訳出版したい!
舞台は昭和11年の台中市。 ひっそりと咲く少女たちの恋 台湾発の百合漫画『綺譚花物語』を翻訳出版したい!

獎を受賞している。

原作:楊双子
台中出身の小説家。台湾の民主化に伴い、いわゆる「台湾アイデンティティ」作品が派生してくる中、台湾歴史小説のジャンルで初期から「女性目線による日本時代」を描き、更に「日本時代に於ける女性にとって唯一構築可能だった対等な恋愛関係」としての百合を描くことで「百合歴史小説」という独自のジャンルを確立した。また大衆文学やアニメ、漫画、ゲームの研究者としても評価を得ている。
2016年の初刊行小説「撈月之人(水面の月を掬う人)」は、主人公である代々霊媒を生業とする家に生まれた女子高生が、従姉の友人である先輩の幽霊を成仏させるべく、幼少時からの友人である山神の助力を得て、その死因と現世に残る理由となった未練を探るため奔走する、というミステリー。
2017年刊行の「花開時節(花咲ける時)」及び、翌年刊行の外伝「花開少女華麗島(花咲ける少女たちの華麗島)」は「百合歴史小説」の大作であり、大正時代の富豪の幼いお嬢様「雪泥」の身体に入ってしまった現代の大学生が、一種の転生チートで「優等生」にのし上がりつつ、第二次大戦期に至るまでの昭和の女性史を「自分事」として体験し、現代とのギャップに衝撃を受けつつも名家の女性当主として成長していく姿を描いている。
上記三作及び2017年に参加したアンソロジー「華麗島軼聞:鍵」に収録の「庭院深深」は、いずれも「綺譚花物語」内の昭和11年を舞台にした三篇の原型、習作としての性格を備えており、「綺譚花物語」はこれまで書きつづられてきた「百合歴史小説」の集大成であるとも言える。

 
片恋が片恋のまま潰えてしまう前に届けたい
発起人・翻訳:黒木夏兒より

2019年夏、偶然入手したCCC創作集で、第二話「昨夜閑潭夢落花」の後編を目にした瞬間から、この作品を訳したくてたまらなくなった。
 昭和十一年の台中女学校、クラス内では少数派である本島人(台湾人)の荷舟、そして内地人(日本人)の茉莉。「今なら、簡単にあの角を折り取れる」。願い事を叶える力を持つ水鹿の角を前に、熱に浮かされたように口走る茉莉の、押し殺したような興奮と、怯え。角を折り取る決定的な瞬間は描かれず、次のページでは既に角は折り取られ、それを抱えて逃げ出す茉莉が描かれている。

 本島人である荷舟は水鹿の復讐を恐れて躊躇い、角を返すよう茉莉を促すが、茉莉はそれを拒む。
「遠くに行こう。誰にも私たちを見つけられない遠い場所に」。水鹿の角を抱えてそう告げる茉莉の陶然とした表情は、荷舟に対し茉莉が抱いている恋心を余すところなく読者に伝えてくる。そしてそれと同時にその「恋」が――水鹿という他者を巻き込み傷つけ、そしてそれによってしか成就せず、加えて茉莉本人の身も水鹿の呪いによってむしばまれていくその「恋」が――まるで台湾に対する私自身の気持ちをも反映しているようで、ぞくりとしたものを感じずにはいられない。

 それでも呪いを受けながら「私は幸せなの」と茉莉は口にする。しかしその幸せは「荷舟の傍にいられることが約束された」ことに由来しているのだと、それが荷舟に対し明言されることはない。言わなくてもそれは荷舟に伝わっているのだと、そのように私たち読者も誤解している。あの、茉莉がうっとりと口にした言葉があるからだ。
 だからこそ、茉莉が最後に突き落とされる絶望は、私たち読者自身にも、絶望的なやるせないなにかとして突きつけられる。

 著者は二人とも台湾人であり、そこまで想定してこの物語を誕生させたのかはわからない。それでもこの物語は、ひょっとすると著者自身も意図