はじめに
NPO法人POSSEは結成以来15年間、「ブラック企業」、「ブラックバイト」といった若者の労働問題に取り組んできました。東京と仙台に事務所を構え、全国から電話やメールを通じて無料で受け付けている労働相談、生活相談へは、毎年3000件近くの相談が寄せられています。
2013年には代表の今野晴貴が執筆した『ブラック企業 日本を食いつぶす妖怪』(文春新書)がベストセラーになり、流行語大賞にもノミネートされました。「ブラック企業」問題が解決すべき社会問題として認知され、政府も「働き方改革」を進める大きなきっかけとなりました。
また、今年3月、毎日新聞社が共催する「『エクセレントNPO』をめざそう市民会議」においては、「第8回エクセレントNPO大賞」「市民賞」の2賞を受賞いたしました。
(ベストセラーとなった『ブラック企業 日本を食いつぶす妖怪』をはじめとする書籍)
そして、昨年から私たちPOSSEは、新たにLGBTQの労働問題の改善に力を入れています。LGBTQとは、L:レズビアン(女性同性愛者)、G:ゲイ(男性同性愛者)、B:バイセクシュアル(両性愛者)、T:トランスジェンダー(生まれた時の性別と自認する性別が一致しない人)、Q:クエスチョニング(自分自身のセクシュアリティを決められない、分からない、または決めない人)など、性的少数者の方を表す総称のひとつです。
その背景としては、POSSEへ労働現場で困難を抱えるLGBTQからの深刻な相談が多数寄せられるようになったことが挙げられます。
LGBTQの労働問題には様々なものがあります。例えば、職場においてアウティング(LGBTQ当事者であることを本人の同意なく第三者に暴露すること)をされたり差別的な言動を受けることや、そもそも就職活動をする際に履歴書の性別欄があることによって半強制的にカミングアウト(LGBTQ当事者であることを他者へ伝えること)を強いられるなどの人権侵害が生じています。
私たちはこれまでこうしたLGBTQ特有の労働問題の相談をメールや電話で受け付け解決してきました。
まず、具体的な事件として、昨年春から保険代理店で働く若者へのアウティング事件に取り組んできました。勇気を振り絞って初めて職場でカミングアウトしたところ、すぐに上司が「1人くらいいいでしょ」と同僚へアウティングをしました。ご本人は心身の不調をきたし、休職後退職せざるを得ない状況へ追い込まれてしまいました。
ご本人はなんとか私たちの窓口に相談を寄せ、会社と話し合いを持つことになりましたが、当初会社は「善意でやった」などと問題を認めようとせず、深刻な二次被害も発生しました。それに対して、私たちは行政への通報や記者会見、問題を社会に訴えるデモンストレーションを池袋にて行いました。最終的に会社は事実を認め、謝罪や賠償、再発防止の約束をするという解決を実現することができました(「LGBTQの「アウティング」に全面謝罪 当事者は「制度」をどう活用したのか?」)。
(厚労省で行った職場でのアウティング事件の解決記者会見の様子)
また、私たちはLGBTQへの人権侵害をなくすための社会キャンペーンも同時に進めています。就活で使う履歴書の性別欄廃止を求める社会キャンペーン「履歴書から性別欄をなくそう #なんであるの」を昨年春からスタートしました。法律上の性別と、現在暮らしている性別が異なるトランスジェンダーの人たちは履歴書の性別欄のせいで半強制的にカミングアウトを強いられ面接で落とされて