1. プロジェクト概要
<プロジェクトを立ち上げた背景>
はじめまして。横浜で活版印刷会社をしております、築地活字の平工と申します。
築地活字は1919 (大正 8) 年の創業からまもなく102周年を迎えます。この1世紀の間、大震災や太平洋戦争の空爆の被害を乗り越えて、これまで事業を継続させてきました。
創業当時の社屋と社員
しかし、新型コロナウイルスによる影響は大きく、弊社は現在、存続の危機に直面しています。
活版印刷に携わる業者にとって、味わいのある名刺印刷は大きな収入源の一つでした。しかし、オンラインでの打ち合わせが増え、人と人が直接会う機会が減り、名刺交換をするシーンがなくなり…それに伴い名刺の発注も急激に減りました。
また、活版印刷業界は後継者不足にも悩んでいます。活版印刷に使う、活字と呼ばれる字型 (金属活字) を作る現役の職人さんは、日本全国でも知る限り4、5人で、職人さん達の高齢化も進んでいます。パンデミック以前より、「今後、技術を継承してくれる人が現れなければ、このまま何もしなければ、近いうちにこの技術が途絶えてしまう」と、危機感を感じていました。
活版印刷および活字鋳造の技術を未来に繋いでいくために、このまま会社をたたむことはできないとの強い思いで、この度このクラウドファンディングを立ち上げることといたしました。1世紀以上活版印刷に携わってきた者として、最後の使命である「活字鋳造の技術の継承」を全うしていきたいと思っています。
<活版印刷とは>
活版印刷とは、金属を溶かして活字母型に流し込んで金属活字(かつじ)と呼ばれる字型を作り、それら一個ずつ組み合わせて1枚の版を構成し、機械にセットし、ローラーにインキをなじませて印刷するアナログな印刷手法です。
デジタル印刷が主流になった今では考えられないことですが、昔は新聞もこのように活字を組み合わせて印刷されていました。
活字を並べて新聞のレイアウトをしている様子
この文字の型を活字といい、活字は一つ一つ職人の手で丁寧に作られています。しかし、現在一般的なデジタル印刷が普及し、活版印刷の需要が減るとともに、少しずつ姿を消しつつあります。
溶けた金属を流し込んで活字を作る活字母型を専門に製作する職人さんは、もう日本にはいません。築地活字にある鋳造機も昭和初期に作られたもので、現在はもう製造されていません。残念ながら、衰退の一途を辿り続けているのが、この金属活字を用いた活版印刷なのです。
何十年も使い続けられている活字鋳造の機械
<再び注目を浴びる活版印刷>
時代とともにデジタル印刷が普及し需要が減っていた活版印刷ですが、近年は個人でレザーのハンドメイドを楽しまれている方やデザイナーの方からも人気があります。活版印刷はレザーに刻印することもできるのです。
日本の活字鋳造が海外と違うところは、ひらがな、カタカナ、漢字と圧倒的な文字の種類の多さです。ひとつの文字に対しての書体もたくさんあるため、海外からも人気があります。
デジタル印刷で作られた名刺(上)と活版印刷で作られた名刺(下)
上の写真はデジタル印刷の名刺 (上)と活版印刷で印刷した名刺 (下)の比較写真です。デジタル化された仮想活字と違い、活版活字は手で触れることができます。鋳造職人が微妙なズレを調整して作り上げる。受け継がれてきた職人の技術は、重みとして、色の深みとして、印刷された紙面に痕跡を残します。
<活字がなければ印刷ができない>
職人の手で作られる活字によって成り立つ活版印刷