た。結婚式の執行者と立会人として、この2人以上に最高の人間をダニーもぼくも知らなかった。
いま大学に通って、ケヴィンは数学とコンピュータ・サイエンスを勉強しています。彼は「アルティメット」というフリスビーの団体競技をやっていて、すごく跳びはねるので「フロッグ(カエル)」というあだ名がついています。かつてぼくらの腕の中に抱かれていた子はいま183cmの背丈になりました。ハーフ・マラソンやフル・マラソンも走ります。家族でいっしょにハイキングやサイクリングやカヤックや国立公園の探検にも出かけます。それとNYメッツの応援にも。クーパー判事はいまは引退しましたが、ぼくらとは連絡を取り合い、裁判所から離れて今やぼくらの家族の一員になっています。 (ピート・マキューリオ)
家族になろうとする努力について
発起人・翻訳:北丸雄二より
アイルランドで有名な極右活動家で陰謀論者のジェンマ・オウドーハティGemma O’Doherty という女性が、「私は誰一人として、ゲイであって幸せである人を見たことがないし知りもしない。ゲイという生き方は惨めで、淫らで、暗鬱たるものだ」とネットに動画投稿したのはつい先ごろ、2021年5月のことです。
一方で遡ること半世紀以上、「幸せなホモセクシュアルを見せてくれたら、陽気(ゲイ)な死体を見せてあげる」という有名なセリフで芝居を終えたのは1968年ブロードウェイ初演のゲイ戯曲『真夜中のパーティー Boys in the Band』でした。「幸せなホモセクシュアル」も「陽気な死体」も、そんなものは存在しない──オウドーハティの言うとおりです。同時に、陽気な死体とは文字どおりゲイの死体という意味にもなり、つまりこれは「幸せなホモセクシュアル」とは「死んだゲイ」のことだという含みにもなります。ゲイは死んで初めて幸せになれる──そんなふうにも信じられていた昔でした。現代LGBTQ解放運動の契機とされる「ストーンウォールの反乱」が勃発する一年前のことでした。
でも、2021年のオウドーハティの動画は散々な反応を呼び起こすことになります。
彼女の動画が紹介されたTwitter上では、「ええ、私たちはとても”惨め”で”暗い”生活を送っている」などという皮肉たっぷりな返事付きで、何とも幸せそうなゲイやレズビアンの、それこそ老若男女あらゆるカップルの写真が溢れたのでした。しかもそのうちの数少なくない写真には、カップルに挟まれて大きな笑顔の子どもたちの姿もまた多く写っていたのです。
私がピートとダニーの本書『Our Subway Baby』のことを知ったのは4月8日、やはりTwitter上でのことでした。すぐにAmazonでKindle版を入手し、その絵が私が25年住んだマンハッタンそのものの街並みやタウンハウス(住宅)の”再現”だったことに強く懐かしさを覚えつつ、「ああ、こういう本が日本にはなかったなあ」と、翌日には作者のピートに「これをぜひ日本でも出版したい」とメールを出していたのでした。ピートは半日もせずにすぐに返事をくれて、翻訳権をめぐるエージェントを紹介してくれました。
アメリカでも同性カップルが養子を迎えることに大きな反発があった時代がありました。そもそも同性愛自体が赦されないとするキリスト教の影響もありましたが、同時に同性カップルが異性カップルのような「健全な家庭生活」を営めないという誤解があり、そこで育つ子どもたちに悪影響を与えるという偏見もありました。
しかし2004年にマサチューセッツ州が、2008年にコ