えば、リアルエールとは「セラーマンの管理の元で提供される、ビアパブで2次発酵させたビール」となります。しかし、日本の酒税法上、樽詰め後の熟成発酵を実現させることは困難です。
そこで日本では、「ハンドポンプ」から提供されるビールのことを「リアルエール」と呼び習わしています。このプロジェクトでも厳密な定義には拘らずにそれを指すこととします。
・「リアルエール」のおいしさ
リアルエールの大きな特徴は、「ビールに炭酸ガスを触れさせない」ことです。
通常のビールサーバーは、ガスボンベからビール樽の中へ炭酸ガスを注入し、ガスの力で「押し出す」ことでタップ(カラン)へビールを導きグラスへ注ぎます。空気ではなく炭酸ガスを使うのは、「酸化」を防ぐためです。ビールは酸素と触れることで風味に劣化が生じます。樽の中ではビールが炭酸ガスに触れていることでビールの酸化が防がれています。
しかし、樽内では炭酸ガスが少しずつビールに溶け込んでしまいます。とくにビールの液温が低いほど、炭酸がビールに溶け込みやすくなります。過度に炭酸が溶け込んだビールは、口当たりに角が立ち、飲み込んだ後も胃に膨満感を増します。
通常のビールサーバーの仕組み。炭酸ガスで押し出します。
一方で、ハンドポンプを使うリアルエールは、ガスの力を使わずに井戸ポンプの要領でビールを「汲み出し」ます。ビール自体にも発酵時に酵母が出した炭酸しか含まれておらず、非常に低炭酸なビールとなっています。
リアルエールは、口当たりが非常に滑らかであり、過度なガスによる膨満感もなく、麦芽の甘味、ホップの苦味をダイレクトに感じやすいという特徴があります。
TOA 著『恋するクラフトビール』P70より
TOAさんの『恋するクラフトビール』にとてもわかりやすい絵がありましたので、ご本人承諾の上で引用いたします。
イギリスのパブでビールを飲んだことがある方の中には、「気が抜けていて、ぬるい」という体験をした方もいるかもしれません。しかしそれは、元々ビールの炭酸が弱いこと(「微発泡」というレベルです) が理由の一つ。もう一つの理由は、イギリスの「エール」は、われわれがいつも飲む「ラガー(ピルスナー)」と比べて、高めの温度帯がよりおいしいビールだからです。ワインに置き換えて例えれば、「ラガー」は白ワインのようにキリッと冷やした方がおいしく、「エール」は赤ワインのように冷やし過ぎない方がおいしいのです。
余談ですが、こうしたパブのビールの液温は、保管しているセラー(地下室)の温度であり、決して「常温」ではありません。唇に触れたときにかすかな冷たさを感じるはずです。「ヨーロッパは常温でビールを飲むんだぜ!」という言葉は非常にイイカゲンなので一切信用しないでくださいませ。
なお、今回のプロジェクトの結果で提供するビールは、すべて上面発酵酵母で造られる「エール」です。「リアルビール」ではなく「リアルエール」なのは、そのためです。
■プロジェクトを立ち上げた理由
2021年の現在、「クラフトビール」が好きでも「リアルエールってなに?」という状況になってしまうのは当然のこと、と上で書きました。
この札幌でその状況を変えることが、プロジェクトを立ち上げた理由です。
現在、札幌でリアルエールを提供するお店は、「bar Diversion」1軒のみです。
「Diversion」はよなよなエールを開発したブルワーから直接注ぎ方を教わり、札幌で初めてリアルエールを提供したお店です。
その後「Higurashi」「Loui’s」