はじめに
私は兵庫県豊岡市で織物業を営んでおります、石田弘明と申します。
着物の帯や、結婚式の花嫁の衣装である色打掛を織っています。
迎賓館 朝日の間の修復の際に、二段織紋ビロードのドレープカーテンの修復に携わりました。
今回のプロジェクトを通じ、二段織紋ビロードの魅力を多くの方々に知っていただきたいと思い、このプロジェクトを立ち上げました。
ビロードとは?
ビロードとは、細かい毛をたて、柔らかで上品な手触りと深い光沢感を特長とする織物のことで、ベルベット、天鵞絨 (てんがじゅう)とも呼ばれています。
多く流通しているビロードの製品と違い、私の織り上げるビロードはパイルとカットパイルを組み合わせて紋様を織り出しており、これは二段織紋ビロードと呼ばれています。
一般的なビロードと二段織紋ビロードはどう違うのか?
織り進める際に、緯糸とともに針金を二段織り込むことが二段織紋ビロードの大きな特長です。
針金は、直径約0.7mm、ステンレス製で、一本一本横向きに通し、織り進めます。
一般的な織物とは違い、織り上がったら完成、というわけにはいきません。
次に、一面に織り込まれた針金を取り除いていきます。
織り込んだ針金のうち、二段目の針金に乗った経糸は、織りあがった際に一本一本、カッターで切っていき、そこから二段目の針金を取り除きます。一段目の針金は、一本一本、生地から引き抜きます。
大変根気のいる作業です。
こうして出来上がるのが、二段織紋ビロードです。
針金をカッターで切った部分がカットパイル(ビロード)、針金を引き抜いた部分がパイルとなり、重厚な風合いを醸し出します。
触ると、”もこもこ”としたカットパイル部分と、”ぽこぽこ”としたパイル部分の感触が手から伝わる、
見ても触れても楽しむことができる織物です。
“これまで”と”これから”
私は約40年、着物の帯を織ってきました。
織物に関しては、40年かけて培ってきた確かな知識とノウハウがあります。
迎賓館 朝日の間の二段織紋ビロードのドレープカーテンは、昭和の大改修において昭和49年に織り直されて以来、40数年ぶりの織り直しであり、職人を探すところからスタートした一大プロジェクトでした。
そんな中、織物に関する知識やノウハウを評価いただき、このプロジェクトで二段織紋ビロードを織り上げる大役を任されることとなりました。
まずは二段織紋ビロードについて一から学んだり、着物の帯を織るために使用していた機織り機を二段織紋ビロードを織るために改造したり、きれいに織り上げるために少しずつ試行錯誤するところから始まり、多くの技術的問題やさまざまな苦悩がありながらも、無事に迎賓館 朝日の間のドレープカーテンを織り上げることができました。
現在も、迎賓館 朝日の間にて、私が織り上げたドレープカーテンが使用されています。
この功績を評価いただき、国土交通省HPの以下のページでも「工芸美術の技を受け継ぐ職人」としてご紹介いただきました。
迎賓館赤坂離宮における建築に係る工芸美術の技の継承と担い手確保に向けて
また、私自身もこのプロジェクトを通じ、二段織紋ビロードに魅了され、より多くの人にこの魅力を知っていただきたい、技術を後世に語り継いでいきたいと考えるようになりました。しかし、それには現実的な問題が多く立ちはだかります。
その最たるものとして、コロナウイルスによる市場の縮小や、職人の減少が挙げられます。
上述のとおり、私は着物の帯や結婚式の花嫁の衣装である色打掛をかねてより作っておりま