震災から10年の石巻でつくる「幸福」を願う写真展と写真集をつくりたい

震災から10年の石巻でつくる「幸福」を願う写真展と写真集をつくりたい
震災から10年。苦しみを減らしたり、悲しみを無かったことにはできないけれど、きっと喜びを増やすことはできる。あれから石巻に居着いてしまった写真家とご近所さんとがチームになって写真展を開き、1年後に写真集をつくります。

震災から10年を迎える石巻で写真展を開き、訪れる人たちと共に出会いと再会を喜び、その表情を目に焼き付けておきたい。

そしてこれから1年をかけて、この地に暮らす人たちの「記念写真」を撮影して、いつでもめくって見返すことができる手に取れるカタチとしての写真集をつくりたい。

幸福とはこういうものだと言いたいわけではありません。タイトルにある「幸福」という文字にはみんな幸福であって欲しいという願いが込められています。

上) 2011年10月10日 / 避難所の再出発式にて 下) 2012年9月6日 / 1歳の誕生日に仮設住宅前にて

「幸福写真」を撮りましょう。

石巻に居着いてしまった写真家と一緒につくる「幸福を願う写真展と写真集」。このプロジェクトを通して、遠く離れたみなさんとも心の距離は近い「ご近所さん」のようになれたら嬉しいです。

幸福な瞬間をみんなでつくって残そう。
はじめまして
実行委員長の遠藤綾子(りょうこ)です。

震災後、石巻を中心に写真を撮り続けたカメラマン・平井慶祐の写真を届けたいと思っています。人懐っこい彼は地元の皆から「けいちゃん」と呼ばれ、愛されています。

2020年12月5日@チームわたほい基地にて

私は、宮城県石巻市の渡波(わたのは)地区にあった避難所のメンバーが立ち上げた任意団体「チームわたほい」のお手伝いをしています。かつて我々の家があった場所にはコンテナハウスと木製の遊具を設置してもらい、避難所時代の仲間や地域の人と一緒に餅つきなどの集まりを催してきました。

2019年12月14日 / 避難所時代の仲間や昔のご近所さんや震災後に出会った人たちも集まる毎年恒例の「わたほい餅つき大会」

支援団体の記録広報係として活動していたけいちゃんと、「被災者」になったばかりの私たちが出会ったのは、小さな避難所でした。彼はもくもくと片付けを手伝い、空虚な励ましはせず、焚き火の近くに腰掛けて皆の話を聞き続けました。

2013年8月10日 遠藤綾子撮影@わたほい夏祭り

やがて避難所が閉鎖し、我々が仮設住宅などに移った後もけいちゃんは石巻に残り、集まりがあると遊びに来て、相変わらず雑談に混じっては時折カシャカシャと写真を撮って帰る「友人」となっていきました。
【実行委員長の想い】 〜私、けいちゃんの写真が見たい!〜

2012年7月23日 @写真展「渡波のひとたち」/ 津波のあと仮リフォームをした美容室にて

けいちゃんが、渡波の被災した美容室で写真展を開催していると聞いて見にいったのは2012年の夏。応急的に修復した壁に麻紐やクリップで下げたり貼ったりした震災直後の写真たち。つらい時期が写っていることに対する不安は、写真を眺めて笑い合う元ご近所さんたちの姿に吹き飛びました。手伝っているボランティアの若い面々、展示を見に来た知人と話し込むパーマ中のおばちゃん、「あんだ写ってたよ!」と聞いて連れてこられた知り合いの知り合い。

2012年7月23日 @写真展「渡波のひとたち」/ 自分の写っている避難所の再出発式の写真に照れながら

そして、その場でまた撮ってもらったプリントを持ち帰る人の嬉しそうな顔を、私は今も忘れることができません。私も故郷から訪れていた両親とギューっとくっついて大笑いしながら撮影してもらいました。その時の写真を、母は今も台所の、ふと顔を上げると見える場所に貼っています。

2012年7月28日 写真展「渡波のひとたち」/ 実行委員長の綾子さんとご両親

けいちゃんは、以前写真を撮ってもらった夫がふとつぶやいた「オレってこんな顔してたんだ」という言葉が印象的だったと話します。私が小さな写真展で感じたことも同じ。彼の切り取った瞬間には、何気ない日常の中で人々が見せる豊かな表情が写されていたからです。

真っ暗な時間を共にすごした仲間だからこそ見える小さな明かり。歯を食いしばってきた人に訪れた穏やかなひととき。私たちはたくさんの写真を失ったし、見返すのがつらいものもあるけれど、写真って大切なものだと思い出す最初の機会となりました。

けいちゃんの写真が見たい。まだ知らない写真が見てみたい。私だけでなくたくさんの人に見てもらいたい。そして、それを眺めながら大切な人たちと一緒にほろりとしたり、笑ったりして、あたたかい時間を皆ですごしたい。

私の願いはこうして募っていったのです。

あっ、けいちゃんには悪いけれど、もしかしたら一番見たいのは、彼の写真を見ている皆の顔なのかもしれません。でも私は知っています。けいちゃんはきっとそんな景色も嬉しそうにカメラに収めるだろう、と。
【キッカケ】〜人生初の「果たし状」〜

2020年3月30日

はじめまして、石巻在住の写真家 平井慶祐(ひらいけい