次にまた来てもらえるかが決まってしまいます。スタッフのかける言葉や態度ひとつで、その時間がいいものにも、悪いものにもなってしまう。接客のすごさ、ある意味での恐ろしさに、いつも注意を払っていました。
若いお客さまが多かったので、フレンドリーな接客を心がけていましたし、従業員のみんなにも、とにかくお客さまとの距離を縮めていこう、もしなにかトラブルがあっても、フォロー次第で仲良くなれる、切り返しで挽回できると話していました。スタッフとお客さんが友達になったり、お客さんがエストエストのファンになり、アルバイトとして働いてくれたり、そんな好循環も生まれていました。
エストエスト開店20周年の時に送っていただいたパネル。懐かしい写真ばかりです
次第に、持ち込みのイベントが増え、交流会や飲み会の問い合わせが増えていました。ようやく、自分なりにですが、理想の店に近づいて来たなと感じることができるようになりました。堂の前にエストエストができて20年が過ぎていました。先ほどもお話ししましたが、その20年は、お客様とエストエストの距離を縮めるための20年でもあったと思います。
縮めた距離が一気に離れたコロナ禍
ところが、2020年の春、日本でも新型コロナウイルスが流行し始めました。店に変化が訪れたのは、日本で本格的な流行が始まる前です。中国の武漢が都市封鎖された2020年の1月頃でしょうか。まず大口の予約が入ってこなくなっりました。年が明けて1月から2月ごろになると送迎会や送別会の予約が入ってくるのですが、それが入ってこないんです。入っていた予約も次第にキャンセルされるようになり、これはまずいな、1ヶ月や2ヶ月でどうにかなるものじゃないなと感じるようになりました。
そこでいち早く、テイクアウトやランチタイムを始めましたが、日本での流行が本格化すると、「外出するな」、「人に会うな」と言われるようになりました。そんな状況では、「来てください」と宣伝を打つこともできません。じわじわと体力が削られるような状況で、次第に、家賃を払うことも難しくなって来ました。ああ、エストエストで今まで築いてきた全てが報道で否定されている、これは詰んだなと。2020年の3月には撤退することを決めました。絶望しかありませんでした。
新店舗の仕事風景。妻と相談しながら、慎重に店づくりを行ってきました
再開に至るまでの道
コロナウイルスの流行で、ほんとうに大きなダメージを受けましたが、飲食業以外のビジネスをやろうとは思えませんでした。手に持っている技術は、これしかないからです。何年かかわるかわからないけど、とりあえず小さい規模でお店を回してこの嵐を乗り切ろうと考えていました。
そこで、この六軒門にやってきました。いずれ手入れして自宅にしようと購入していた物件だったのですが、思い切って店に使うことにしました。まず、場所がいいんです。お城山の上にあるので風が吹き込みます。周囲には緑があり、中心部からは適度に離れているので静かなのもいい。ここでなら、人と人との物理的な距離を保ちつつも、心の距離は近づいていくというような、新しい業態、新しいやり方で飲食業を続けられるんじゃないかと感じました。
平六軒門に完成した、新店舗エストエストガーデン
広々としたウッドガーデンで気持ち良く食事を楽しむことができます
新店舗では、ウッドデッキでお食事を楽しむことができます
ランチタイムでは、パスタを中心にお料理を提供しています
ただ、内装の工事は、業者さんに外注する余裕がないのでほとんど自分のDIY