歴史的建造物の再生プロジェクト x The Japan Times

歴史的建造物の再生プロジェクト x The Japan Times
日本中に存在する歴史的建造物が、朽ちることなく、たくさんの人に見守られ、手入れされ、使われ、次世代に引き継がれることを願い、歴史的資源の活用を通じた文化の継承を進めるプロジェクトです。

る費用をまかなっていくというサイクルを作るためにバリューマネジメントが立てた計画は、大洲城だけでなく、同じく国の重要文化財に指定されている臥龍山荘を筆頭に、街に点在する数多くの歴史的建造物をホテルやレストランなどとして活用し、旅行先として選ばれる街にしていくというものでした。このように旅の目的地となりうる場所を分散させることによって回遊が生まれ、その地域に長い時間滞在することになり、滞在時間は長ければ長いほど、観光消費額は上昇します。

しかしこのような街全体をマネタイズするという計画を進めるには、自治体や金融機関、地元住民の協力を得ることは不可欠です。「自治体が持っている文化財を修復するところまでは自治体の予算でできますが、それを商業用に運営するために投下する資金はファンドや融資を活用していく必要があります」と他力野さんは言います。資金調達の場面でも、街をあげて取り組むことの重要性が際立ちます。そもそも観光地としての知名度がまだ無い場所で、一棟の建造物を宿泊施設にするから融資してほしいと言ったところで、回収の見込みなどを考えるとそう簡単に金融機関は融資できません。大洲の場合、自治体も金融機関も住民も参加した上で、先に街をどうしていきたいかという計画を立て、必要資金の額も用途もはっきりさせて利回りも決めてから、一般財団法人民間都市開発推進機構(MINTO機構)と伊予銀行によるファンドを組成するという順序で進められました。こうすれば、金融機関としては、明確化された収益モデルへの出資・融資ということでリスクを抑えられます。

この資金の受け皿として大洲市に設立されたのが株式会社KITAです。社名は、明治時代に木蝋などを世界に輸出していた大洲出身者が結成した「喜多組」にちなんでつけられました。この株式会社が、計画の対象となった建造物の改修、賃貸、管理などを担当する一方、同じくこの計画のために発足した一般社団法人キタマネジメントがDMOとして街全体のエリアマネジメントの役割を果たし、バリューマネジメントが各施設の運営を担うという三本柱で「まちの事業化」を進めています。「よそ者である我々が担うのは、集客装置を作って運営し、外からやってくる人と街との接点を作るという役割です。訪れた人たちが帰るときには街自体のファンになっているようにするには、自治体や地元の金融機関、住民の方々など、その土地に根差す人々の参加が不可欠なのです」と他力野さん。

大洲の歴史的建造物活用にはもうひとつ工夫があります。大洲城も臥龍山荘も、そもそもが文化財なので9時から17時までは一般に開放されています。だから他の目的で活用できないのではなく、裏を返せばそれ以外の時間は他の用途に使えるわけです。そこで大洲城では、宿泊客には別棟でチェックインしてもらって、一般開放が終わって宿泊客受け入れの準備が整う18時までは街歩きなどを楽しんでもらい、18時に鉄砲隊や幡隊による演出付きの入城体験が開始、夜の時間を使って県指定無形民俗文化財神楽などを鑑賞したり夕食を味わってもらったりするという形をとっています。朝は早めにお城を出て、朝ごはんは臥龍山荘で。これまた一般開放がスタートする9時までの朝の時間を利用して、提供されます。
■バリューマネジメントと「まちの事業化」のこれから

このように、大洲の事例には、日本全国のいろいろな歴史的建造物や街の保存に活用できるヒントが盛り込まれています。「新しいことを一から始めるのは難易度が高いので、ひとつの地域で成功したモデルをまた別の地域で必要に応じてアジャストし