日本の漆文化を守り、育む取り組みを応援したい!

実に仲間を増やしていった松沢さんですが、もうひとつ重要なのは、早く、効率的に、しかも安定的に、漆の採取をするための技術です。まずひとつめの問題として、漆の木の種は発芽しにくいため、研究機関や種苗業者の協力を得て種の発芽率を上げ、苗を増産する研究が進められています。ふたつめの問題は、漆の木は成木になるまでに10年以上かかってしまうということ。これを解決するため、国立沖縄工業高等専門学校との共同研究により、漆の木に衝撃波を当てて圧力をかけて漆を採取するという衝撃波破砕技術を活用した採取方法を生み出しました。これにより、樹皮に傷をつけてしみ出た漆をヘラで掻き採るという従来のやり方と比べて倍以上の量が採れ、しかも7〜8年程度の若い木からも採取できるということがわかりました。

コロナ禍でのピンチと新発想

コロナウイルスの流行により、大きな展示会などはすべてキャンセルとなってしまった2020年。ウェブミーティングなどで対応可能なものもある一方で、当然新規の商談は減り、海外展開も足止めになってしまいました。次世代漆協会が手がける漆の木の植樹イベントなども、首都圏からの参加は募集せず、地元を中心に小規模で実施せざるをえませんでした。昨年植えた苗木は3,500本。毎年継続して5000本を植樹していく予定です。

また、昨年の夏には衝撃波破砕技術を活用した機械による初めての漆の採取を行う予定でしたが、これもコロナの影響で先送りとなりました。高電圧の特殊な機械を動かすため、専門家の立ち会いが必要なのですが、協力してくれている研究者はそれぞれ沖縄と熊本が拠点のため、岩手までの長距離移動が叶わなかったのです。漆の液は6月頃から木の中で作られていき、採取は夏場に行われます。人間界の状況がどうあっても、自然は待ってはくれないのです。今年こそはこの新しい技術を使った採取の実施を目指すと同時に、できるだけ将来的には地元の人手で回していけるように方法を模索中です。

実施できなかったこともある一方で、新たにスタートした取り組みもあります。例えば、漆の木のチップを使って染めた、漆染めのマスク。漆には抗菌作用があるため、ヘルスケアの分野とは親和性があるのでは、という発想です。また、抗ウイルス性もありそうだということで、現在研究が進んでいるそうです。

また、浄法寺漆産業では、木で作った消毒液スタンド「クラフトマンスタンド」も製造・販売しており、岩手県軽米町のふるさと納税の返礼品のひとつにもなっています。現在販売中のものは地元産の杉の木が使われていますが、今後漆塗りのものも作っていく予定だそうです。

漆の実を焙煎したうるし茶も作っています。香ばしいかおりが特徴で、現在有効成分を検査中とのこと。木をすみずみまで無駄にせず使い切るという発想も、日本ならではの良さのひとつと言えるでしょう。

もっと知ってほしい漆の良さ

漆には、他にも多くの人にとって初耳かもしれないたくさんの長所があります。漆を塗ったり染み込ませたりすることで素材の強度が上がることから、楽器や釣り道具などに使われることもあります。丈夫でありながら、長い時間を経て紫外線で分解されるため環境に優しい素材です。そして何より、継続的に育てて管理すれば、枯渇することのない、今まさに再注目すべき再生可能な資源なのです。

ウルシネクストでは昨年、漆で作ったSDGs(国連の持続可能な開発目標)バッジを製作しました。サステナブルな天然素材漆を活かしてきた先人の知恵、伝統の技をもっと身近な存在にして、持続可能な社会の実現であるSDGsの