はじめに・ご挨拶
舞踏家の正朔です。
私は1984年舞踏の創始者である土方巽に師事し舞踏の世界に入り、師の作品に出演し、全てのワークショップに参加しました。
師の死後、その団員により結成された「白桃房」に1996年まで在籍し、その後ソロ活動を中心に様々なジャンルの方と共同制作を行いました。
2004年に、舞踏カンパニー「Dance Medium (主宰:長岡ゆり)」に参加してからは、長岡ゆりと共に振り付けと演出を行い、毎週木曜日に定期舞踏ワークショップを続けています。
2013年には、第43回舞踊批評家協会賞を受賞しました。長年に渡り、海外での公演、ワークショップを数多く続け、コロナ禍の現在はオンラインによるワークショップも精力的に行っています。
Photo by Peter Van Heesen
このプロジェクトで実現したいこと
私は長年、師である土方巽の舞踏論や舞踏技法を研究しながら、独自の方法論として発展させてきました。
そして、今このコロナ禍によって世界中の人々が閉塞された心理状態に追い詰められていることを憂いています。
こうした現代にこそ、舞踏の持つ心身の開放性、他者との共有性、命の活性化という力が急速に求められていると感じます。
40年間の舞踏活動の間に、私が様々な国で書き溜めた舞踏文章を今回一冊の本にまとめ出版することによって、世界の皆さんとこの時代を乗り越えていきたいという切なる願いからこのプロジェクトを立ち上げました。
舞踏家玉野黄市との共演 Photo by 那波智彦
プロジェクトをやろうと思った理由
現在、世界に大きく広がり続ける舞踏というジャンルですが、その内容の難解さの故に、その理論を理解する為に創始者である土方巽への関心も世界中で高まっています。
土方巽の最後の弟子である私が、直接側にいて教えられた事、様々な技法や文献から読み解いた土方巽の舞踏への思いや理論、更に土方巽が死の直前に描いていた新しいビジョンを表した文章を書き溜めたものがあります。
それらを更に発展させた私の新たなビジョンを込めた文章を是非多くの方々に読んで頂き、この苦難の時代を共に乗り越えていけたならと切に願っています。
Photo by Peter Van Heesen
これまでの活動
私が土方巽のワークショップで受けた感動はとても強く、衝撃的なものでした。
公演に向かうための稽古は過酷なものでしたが、ワークショップは舞踏の発生現場を味わえるものであり、どちらも大切な経験でした。
私は土方巽の全てのワークショップを受け、師の死後結成された舞踏団では10年間ワークショップを担当し、その舞踏団を辞めた後も様々なジャンルの方にワークショップを行いました。
そして「Dance Medium (主宰:長岡ゆり)」創立に加わって以来、週一回の定期舞踏ワークショップの他に、夏季の集中ワークショップや、海外の多くの国でもワークショップを行い続けています。
その内容は土方巽の方法論を元にしていますが、私独自の方法で発展させてきたものです。私が伝えてきたのは形や動きの方法論よりも(もちろんそれも使いますが)、土方巽のワークショップを受けた時の、
「知らなかった自分との出会い」という衝撃的な身体経験です。
こうした様々な経験を基として、舞踏を文章化する機会が多くあり、その文章はこれまでに「江古田文学」、「テルプシコール通信」(二年間連載)、「ダンスワーク」などに掲載されました
また、公演だけでなく、立教大学、神戸大学、京都大学