現在、全国の公衆浴場は絶滅の危機に晒されていて、廃業イコール建物解体というのが大多数でしょう。「大學湯」も最初はその例外ではなく、遺産相続話し合いの場で、相続人の一人から当然のように「解体処分土地売却」という提案がなされました。ただ、身内として、創業者の想いのこもった建物を温存したいという一途な気持ちがはたらいて、気がつくとその提案を押し返していたのです。
それから時間はかかりましたが、少しずつ状況の整理ができてきたことで具体的に動きだそうと思ったものの、何をどうすることからはじめたら良いものか・・。まずは、古い建物を大切に残して活かしていく活動や事業をされている専門家の方に連絡をしたのが、「大學湯」再生に向けた私の最初の一歩でした。
そのとき快く相談にのってくださった「家いちば」の藤木哲也さん、「福岡R不動産」の長谷川繁さんに出会ったことで、お二人の後押しもあり「大學湯」を維持保存して新たな場として価値を見出していく可能性が少しずつ見え始めてきました。
そして具体的に動き出すと人が人を呼び、様々なご縁をいただいて、箱崎地域を活性化するために尽力されている「ハコと場をつくる株式会社SAITO」の斎藤昌平さんにもご協力をいただけることになり、福岡R不動産・SAITOの共催企画で、「大學湯」の利用希望者を募るための「大學湯びらき」というお披露目イベントが開催されました。2018年12月のある寒い夜のことでした。
(会場に来た私は、ただただ驚かされ、そしてたくさんの勇気をいただきました。)
イベント当日、飛行機に乗って「大學湯」に駆けつけた私は大きな感動に包まれることになります。会場を埋め尽くすほどのたくさんの方にご来場いただいていたのです。「大學湯」でこんなに人が溢れた光景はもういつ以来でしょう、きっと天国の祖母も喜んでくれているはずです。そして「どうにか大學湯を残して欲しい」と、熱い想いと関心を持ってくださっている大勢の方々がいることを知り、この日、私の気持ちは「絶対に保存する」という確信に変わっていったのでした。
(「大學湯びらき」で皆さんと撮った集合写真です。)
それから、当時九州大学大学院芸術工学府環境・遺産デザインコース長であられました藤原惠洋教授との貴重な出会いがありました。藤原教授は、国の文化審議会専門委員で、建築史学・文化遺産学・ヘリテージマネージャー(建築士会)などをご専門にしておられ、「大學湯」を次のように高く評価してくださったのです。
「戦前期九州帝国大学時代の箱崎学生街には欠かせなかった生活インフラ施設として重要な歴史を刻んでおり、全国的にも残存遺構が少ないところから、希少価値を有する優れた近代建築遺産である。」
さらに、こうもおっしゃってくださいました。
「かつて将来有意な学生を育んだ学生街としての矜持を有した箱崎地域社会にとって欠かせない記憶モニュメントであり、今後も維持存続し、積極的な保存・再生・活用を行なっていくことが期待される。」
この評価をいただいたおかげで、「大學湯」を文化遺産として維持・保存して、活かしていくことが地域社会とその将来にとって意義のあることだという強い信念へと繋がっていったのです。
※藤原教授の活動が記録されたブログでもご紹介いただいております。
・ふ印ラボ(九州大学大学院芸術工学研究院 芸術文化環境論講座 藤原惠洋研究室)
そして、いよいよ具体的な修繕計画へ向けて建物の事前調査が始まりました。
改修の監修には、古民家や文化遺産の再生等に多く携わってこられた一級建築士・