うちに誰かを傷つけてしまったり、逆に傷つけられたりすることが増えていくのではないでしょうか。
だからこそ、“相手の立場になって考える”という当たり前のことを考えるきっかけをつくり、拡げたい、と考えるようになりました。
その手段として、絵本を選択した理由は2つあります。
1つは、共感力のような非認知能力は年齢が低いときの方が成長しやすいというデータがあり、幼児期から触れるものにしたかったこと。
もう1つは、絵本であれば、読み聞かせを通じて、私のような親世代にも相手の立場になって考えることの大切さを再認識してもらえるのではないかと考えたからです。
■2つの視点で読む仕掛け絵本
今回制作する絵本は、共感力を育むために、相手の立場に立って考えるきっかけづくりとして”2つの視点で読む”という特徴を持っています。その特徴を、“じゃばら構造”で実現します。
私は紙商社で働いていたことがあり、紙加工の多彩なわざを使って、デジタルにはない、物質ならではの魅力を持った面白い本を作ってみたいなと考えていました。
そして、じゃばら構造の本に出合った時に、表裏で同じ主人公の異なるストーリーを描き、それをシームレスに読み繋ぐという体験が、違う視点に立って考えるきっかけになるのでは、と考えました。
今作では、みんなの知っている「ももたろう」を題材に、2つの視点からの物語を描く予定です。
1つは、一般的なももたろうの物語。もう一方は、川から流れてきた桃が、もしも、おばあさんに拾われずに鬼ヶ島まで流れついてしまい、ももたろうが鬼に拾われ、育てられたらどうなるか、といった物語を掲載する予定です。
こういった別視点のももたろうの物語は、既にいろいろなものが世に出ていて、芥川龍之介や尾崎紅葉などかなり昔の時代の人にも作られていますが、今回制作する絵本は異なる2つの視点を連続して体験できる点がポイントです。また、単純に2つの話をのせるのではなく、ストーリーが重なり合うような内容にし、思考を刺激できるものになっています。
また、反響があれば、昔話を題材にシリーズ化していくことも考えています。
<じゃばら構造の絵本に2つのストーリーが入る>
■共感力を高め、尊重し合える時代に
この本を読むことで、子どもたちに伝えたいことは3つあります。
1つ目は、“1つのものごとに、異なるいくつかの見方がある”ということ。別視点の物語の中で、ももたろうや鬼が違った様子で描かれていることを通じて、一面だけで判断せず一旦立ち止まって考えることの大切さを感じてもらえればと思っています。
2つ目は、“自分と相手の違いは、ちょっとしたことで生じている”ということ。ももたろうは、おばあさんが桃を取りそこねるというちょっとしたきっかけで、育つ環境・考え方ががらりと変わります。もしかしたら自分が相手の立場であったかもしれない、と思えることが、相手の立場になって考えることを助けるのでは、と思っています。
3つ目は、“違いを認めることで、社会が豊かになる“ということ。別視点の桃太郎は、育ててくれたみんなと違ってツノがないことに悩みますが、鬼から違いを認めることの大切さを教えてもらいます。違いを認めることは、違いを認めてもらうことの裏返しであり、自分自身の生きやすさにも繋がる、ということを感じてもらえればと考えています。
この本の対象として考えている5~7歳の年齢では、登場人物に自己投影はできても、違う立場になって考えることはまだ難しいと言われていますが、絵本の主人公に自分を重ねて、これらの3