ごあいさつ
みなさま、はじめまして。お久しぶりの方もいらっしゃると思います。写真家の木戸孝子です。高知県出身で、2002年にニューヨークへ渡り、インターナショナルセンターオブフォトグラフィー(ICP)で写真を学びました。2008年、帰国。2009年から、夫の故郷の仙台市に住み始めました。日本での生活に奮闘していた2011年3月11日に、東日本大震災が起きました。
津波から4日後に被災地へ
津波の地域の人たちとは比べ物になりませんが、自分自身も被災し、夫の両親の無事を確かめに行き、水をもらう列に3時間も並んだり、食料を調達に行ったりしていましたが、地震から4日後、3月15日に初めて名取市閖上(ゆりあげ)に入りました。水の力で街がなくなり、すべてがめちゃくちゃでした。何を撮ればいいのか、ここで写真を撮っていいのかさえ分かりませんでした。ただ祈りながらシャッターを切りました。
でも、いったん撮り始めたら、ここに住む写真家として撮り続けなければ、という責任のようなものを感じて、仙台市荒浜、名取市閖上、七ヶ浜町などに一人で通うようになりました。
そのうちに、季節がめぐるのを見ました。初夏には海から心地よい風が吹き、ここはどんなにか気持ちの良い場所だっただろう、と想像せずにはいられませんでした。梅雨明けの日には、海もガレキも真っ赤な夕日に包まれました。目の前にあるのは破壊されたものばかり。ガレキの山は大きくなり続けていたけれど、そこには、“絶対に壊せない美しいもの”が確かにあり、”カオスの中に秩序のようなもの”があるのに気付き始めました。
被災地で撮り続けたもの
“エネルギーは壊されることも創られることもない。ただ形を変えて存在し続ける。”
-エネルギー保存の法則-
私たち人間もエネルギー体です。という事は、被災地は、津波で突然命を奪われた人々のエネルギーに満ちているのだろうか。体はなくなっても、生命のエネルギーは形を変えて、私たちと一緒にいるのだろうか。私は、何物にも壊せない美しさの中に、人々のエネルギーを見て、カオスの中の秩序に、生と死を繰り返す永遠の生命の法則を見ていたのかもしれない、と思いました。
私は、取り残された物や、海や空の光の中や、自分の日常の中に、彼らがいた事を、今もいる事を、感じたいと願いながら、見えないエネルギーを撮り続けました。悲しみが充満した被災地で、私自身が生命の永遠性を信じたかった。そこに希望を見つけたかった。
ある日、森岡正博さんの本に出会いました。
“生きていたあなたは、死んだあなたへと生まれ変わり、私のもとへと再び帰ってくる。あなたは消滅するのではなく、死者として静かに蘇ってくるのだ。”
– 森岡正博 「生者と死者をつなぐ」より–
この一節を何度も読み返しながら被災地に行きました。
そうして、2012年9月に初めての子供を出産する2週間前まで、撮影を続けました。
そのうち、今度は家族で再び被災地に行き始めました。仙台市荒浜や名取市閖上(ゆりあげ)には、子供と一緒に遊べる場所ができました。どろんこで遊べる公園、スケボーパーク、閖上の朝市、サイクルスポーツセンター。パパに息子と遊んでもらって撮影を再開しました。
プロジェクトをやろうと思った理由
こうして撮って来た作品は、去年12月にキヤノン写真新世紀の協力で作品集”The Unseen”として完成しました。タイトルの”The Unseen”は、見えないものという意味。キヤノンドリームラボという、高品位、高画質プリンターによる印刷で、20部という希少