そして余ったアセチルCoAはミトコンドリアタンパク質群(エネルギー産生に大切な酵素)に作用して、アセチルCoAのアセチル基というものがミトコンドリアタンパク質に結合してしまいます(ミトコンドリアタンパク質のアセチル化)。
このミトコンドリアタンパク質群の「アセチル化」を、私は「汚れ」と表現しています。
食べ過ぎによって汚れたミトコンドリアタンパク質はうまく機能することができず、ミトコンドリア内のクエン酸回路の不調和を生み出してしまいます(図3右)[文献1]。
つまり、ミトコンドリアタンパク質の汚れ(アセチル化)はミトコンドリアのエネルギー産生機能を低下させ、糖や脂肪を分解させにくくしてしまいます。
そして大変残念なことに、一度汚れてしまったミトコンドリアを元に戻すことはそう簡単にはできません(でした)。
太った人がやせにくい、あるいはやせたとしてもリバウンドしやすいというのは、このミトコンドリアの汚れのせいではないかと私は考えています。
※図3
実は、生体内にミトコンドリアタンパク質の汚れを落とす「お掃除屋」が存在しています。
それが脱アセチル化酵素SIRT3です(図4)。
これに関しては、大変面白い論文があります。
このお掃除屋SIRT3の機能が低下したマウスでは、ミトコンドリアの汚れがひどくなり(アセチル化が進む)、メタボリックシンドロームを加速させることがわかりました。
そして太る期間が長くなると、このお掃除屋SIRT3が機能しなくなるということも報告されています [文献2]。
つまり、ミトコンドリアの汚れが肥満を促進し、肥満が促進すると汚れが落ちにくくなるという負のスパイラルに陥ってしまうのです。
単純にこのお掃除屋を活性化してあげれば太りやすい体質が改善されると考えられますが、しかしこれまた残念なことに、その有効な方法はこれまで見つかっていませんでした。
※図4
話は変わりますが、私はこれまでミトコンドリア機能と線虫の不妊についての研究を行ってきました。
結論からお話ししますと、受精した卵子のミトコンドリアが汚れていると受精卵は成長しなくなる、すなわち不妊になるということが分かりました。
そして大変興味深いことに、この線虫の研究の過程で偶然にも、お掃除屋を活性化してミトコンドリアの汚れをきれいに取ってくれる物質を発見したのです。
それが『ポリアミン』です。
ミトコンドリアを汚した卵は成長の途中で死んでしまいますが、ポリアミンを与えた卵では最後まで成長させることができました [文献3]。
ダイエットの話に戻しますと、ミトコンドリアの話にはなっておりませんが、太らせたマウスにポリアミンを与えると脂肪が減少することが報告されています(図5)[文献4]。
※図5
研究開発には莫大な費用がかかるため、現在はポリアミンに関する様々なアイデアを形にすることができておりません。
しかし私は万里一空の精神をもってこの研究をさらに進め、健康に様々な悪影響を及ぼす肥満や、治療費が大きくかかってしまう不妊の新しいサポート材料のひとつとして、ポリアミンをできる限り早く皆様に活用していただけるよう努めていきたいと思っています(図6)。
そして、今回お話しませんでしたが、アルツハイマー病などの神経変性疾患やアトピーなどの免疫系疾患などの進行をポリアミンが抑えてくれるのかに関しても検証していきたいと考えています(図6)。
※図6