に行けば治ってしまうような腹痛で、
いのちを落としてしまう現実がありました。
「夢はなんですか?」と聞くと
「健康が守られて、大人になることです」とこたえる世界がある一方で、
私達の国では生きられるのに死を選ばざるを得ない苦しみがあります。
少子高齢化と騒いでいる中で、明日を担う若者が死を選んでいます。
若者の自殺は、
警察庁の統計で昨年(2020年)は中学生が146人、
高校生が339人と、ともに過去最悪となりました。
いのちの電話に寄せられる10代の相談も
19年の275件から20年は327件に増えています。
(出典:毎日新聞2021年5月30日)
ネットで聞こえてくる声は
「死にたいってより、消えたい。」
「生きるのが怖い。死ぬのも怖い。」
「安楽死を認めてほしい。」
そんな多くの叫びを聞く時、
「もしコンビニで安楽死できる飴が
300円で売っていたら、
この国はどうなっちゃうんだろう」
そんなことを考えてしまいました。
「必要なのは、ほんの少しのぬくもりなんだと思います」
そう言っていたのは、
連日、人々のうめきに耳を傾ける
北海道いのちの電話相談員の杉本明さんでした。
私達に必要なのは「死ぬな」とか「生きろ」という言葉ではなく、
「死にたい」
「消えたい」
という思いをそのまま受け止める、
人のぬくもりじゃないでしょうか。
死にたいくらいの気持ち、
消えたいくらい張り詰めた気持ちを、
「苦しいんだね」ってそのまま受け止めて寄り添ってくれる
「あなた」という存在が必要なんです。
僕自身が、そんな寄り添ってくれる存在によっていのち救われた一人です。
ゼップダイバーシティ東京でのライブ
2017年、ゼップダイバーシティ東京単独ライブを前にして僕は、
燃え尽きたようなを経験しました。
かつてあんなにあった僕の情熱も、感謝も喜びも失い、
ずっと自分を責め続ける日々が続きました。
今日を呼吸して生きているだけでシンドイっていう日々を通りました。
2人の子供、家族がいるにも関わらず
死を考えたことが2,3度ありました。
当時の僕の呼吸が楽になったのは、
孤立するなか手元にあったスマホから流れる
「希望を感じられる言葉」と
「優しい音」を聞いている時でした。
自分はあきらめているのに、
自分をあきらめていない人の言葉が、
違和感と同時に少しだけ心が楽になれる呼吸を与えてくれました。
苦しみの中だからこそ心に響いた
「何ができても、できなくても、
何を持っていても、失っても、あなたは最高だよ」と言う、
家族とメンバーの言葉があったから今の僕がいます。
彼らのぬくもりがなければ、
きっと僕はこの集合写真に写っていなかったでしょう。
それからの僕の音楽と言葉は、
その経験からの恩返し、恩送りのような気持ちです。
あなたしか近くにいてあげられない人がいる。
あなたしか大切にできない人がいる。
そんな人に
「あなたを絶対失いたくない。」
って思いを伝える方法がひとつでも多く必要だ。
そんなことを願いながらコロナ禍、ずっと原稿を書き続けてきました。
僕が一人苦しんでいるとき、
希望の言葉が少しだけこころを軽くしてくれたように、
この本が読む人のこころの呼吸を少しだけ楽にしていくことを、
ただただ願っています。
【書籍概要】
書名:『いいんだよ 昨日までのこと全部』
著者:田中満矢
版元:いのちのことば社・フォレストブックス