はじめに
「アラブの春」以降、息苦しくなった祖国を離れる選択をしたエジプト人や、まさに命の危険を逃れて国を出たシリア人など、日本にも多くのアラブ人が住んでいます。そのほとんどは、未婚または小さな子どもをもつ若者世代です。そして日本での生活が長引くにつれて、彼らの多くが直面するのが、子どもの教育問題です。
それはどういうことかというと…
親たちは日本でのサバイバルのために必死で日本語を学びますが、片言または不十分な日本語能力のまま、働いたり勉強したりしています(難民学生支援プログラムで日本に来ているシリア人の多くは理系出身者で、日本語は不十分でも当面は何とかなります)。他方子どもたちは日本の幼稚園や小学校で育ち、親たちよりずっと自然に、年齢相応の日本語を身につけています。
日本で暮らすシリア人の子どもたち。
広島県廿日市市にて。
むろん日本の学校でのさまざまな苦労もあり、深刻な問題も起きています。でも長い目で見て最大の問題は、子どもたちが母語であるアラビア語をきちんと学ぶ機会がないまま成長してしまうことです。親との会話はアラビア語で続くとしても、アラビア語の本も読めず、アラビア語による深い思考や論理的な表現の能力を養う機会がない。放っておけば子どもたちは、そのまま成長してしまいます。仕事や勉強で忙しい親たちが、子どもの勉強に付き合える時間も限られています。
「日本で暮らすなら、日本語が出来れば十分!」。そうではないのです。宗教、文化、さまざまな習慣の継承を支えている母語を身につけることが、知的にも精神的にも安定した環境を作り、自信をもってホスト社会に参画してゆくことにつながります。特にアラビア語は「話し言葉」と「読み書きの言葉」が乖離しているので、読み書きをしっかり学ぶ必要があります。
オンラインのアラビア語教育プログラムは、こうした親たちにとって大きな助けとなるものでした。ところが、あるプログラムがそれまでの無償方針を突然変え、月々数万の授業料を求めるという事態となり、そんな額を支払う余裕のない親たちは困っています。別のプログラムが見つかったとしても、それが安定的に続くかどうかの確証はなく、子どもを混乱させるリスクは避けたい。それならばいっそ自分たちの手で子どものアラビア語教育を始めよう、ということになりました。
そこで立ち上げたのが、
アナーラ(アラブの子どものための母語教育協会)です。代表の日本人(田浪)は資金調達やマネジメントなど、裏方に徹します。子どもを教えるのは、言語教育や幼児教育に経験や見識をもつアラブ人の親です。オンラインですが顔の見える関係の中でシステムを作り、軌道に乗ったら広げていきます。
このプロジェクトを行うために立ち上げた団体で、まったくゼロからのスタートです。団体としての活動実績はありませんが、このプロジェクトを一年継続させれば、それが実績となり、継続的な支援を得るための足掛かりとなります。子どもの教育支援は、安定的に持続させることが必要ですが、そこは覚悟の上です。
このプロジェクトで実現したいこと
・アラブの子ども(小学校1年~6年生)を対象に、週3日(一日あたり1時間)のアラビア語の授業をオンラインで提供します。子どもが日本の学校に通いながらオンラインで無理なく学ぶ時間数として、親たちと相談して決めました。
・スタートは2021年のラマダーン終了の翌週、5月17日の予定です。
・先生となるアラブ人が、片手間