で、必ずしも売り上げが上がるわけではなく、どうしてもはじめは赤字になってしまうものである。
経営者である廣木も、やれ銀行だ、やれ税務署だ、やれ年金事務所だと、事務手続きに振り回され、マジシャンとしての活動に手が回らなくなったりもした。わずかしかない売り上げのために、それよりも大きな金額をかけて税理士に会計を頼まねばならず、廣木も胃の痛い思いをしたものだった。
そんな中でも、ヒーローウッドエンタ-テイメントは提携のマジシャンを徐々に増やしていった。
と同時に、事務手続きにひと段落が付いた廣木も、マジシャンとしての収益を上げられるようになり、ヒーローウッドエンタ-テイメントが黒字を出すことができるようになったのは、12月になってのことだ。
翌2020年1月も黒字化できて、ようやく順調なやりくりができるようになったと、そのときは廣木も、損益計算書を眺めながら胸を撫で下ろしたものだった。
しかし、今現在世界を騒がせているウイルスが、日本に上陸したのは、そのような折りのことである。
2月にはずいぶんと話題になり、3月になると様々な飲食店が閉店せざるを得なくなった。大きなイベントなども相次いで中止になった。それによって、マジシャンたちの仕事もほとんどがキャンセルされる状況になる。
もちろん、ヒーローウッドエンタ-テイメントも何の例外もなかった。黒字化の目途が立ったと思った矢先に、売り上げを立てる算段を失ったのである。
そこから先、現在に至るまでに、営業利益がプラスになることはなかった。
しかし、それでも削れない経費があるのが、企業の辛いところである。
いかなるときに依頼が来たとしても、商品を安定提供する義務が企業にはあるのだ。
何の仕事もない可能性があるという理由で、その供給経路をストップさせていては、企業としての未来がないことになるのである。
売り上げが出せなくても、経費は発生するし、活動も続けなければならない。
ヒーローウッドエンタ-テイメントは、そこから様々な資金調達に奔走することになる。
日本政策金融公庫のコロナ特別貸付、経済産業省の持続化給付金、文化庁の文化芸術活動の継続支援事業。ものによっては将来的に返済するべきものであるし、ものによっては必ず赤字になる事業しかできない補助金である。
そして今回のクラウドファンディングに至る、というわけだった。
クラウドファンディングには、他の資金調達と一線を画す要素がある。それは、支援者に価値を提供できることだ。ただ資金を提供してもらうだけに止まらず、リターンとしての商品を提供することができるのである。
これは、融資や投資よりも、従来のマジシャンたちの「不思議さや驚きを提供して、その対価としてお金をいただく」という構図に近い。
たくさんの資金が集まれば、集客や広告として使うことができ、マジシャンたちの活躍の場を増やすことができるし、そもそもリターンを提供する時点でも活躍の場がある。二重に活躍の場を広げられる機会だと、廣木は考えたのである。
このコロナ禍、悪いことばかりではなかった、と廣木は思う。
このような、様々なことを考えるきっかけになったし、リターンのアイデアを出してくるマジシャンたちの熱い気持ちも確認ができた。
あるマジシャンは、
「こんなサービスがあればおもしろいのではないか」
と新しい提案をしたし、また別のマジシャンは、
「プロジェクトを成功させるためなら!」
と自分の金銭的な取り分を引き下げた。
「支援者の負担にならないように」
と、このプロジェ