黒文字であればどのようなものでも良いわけではありません。有効成分を余すことなく抽出するために、良質の枝を見分けながら樹を切っていきます。普段人が入らないような険しい山奥に自生する樹木の方が香りが強いとのことで、1日に採れる量も限られています。
切り出された樹木から香りの成分を抽出する方法に私たちはこだわりました。
これまでは樹木を入れた釜に高温の蒸気を入れてエッセンシャルオイルやフローラルウォーターを抽出する方法が一般的でした。
しかしこの方法では高温の蒸気で植物の有効成分が分解、変性するという難点があります。またフローラルウォーターは、外部から加えた水分含有量が多いため、腐敗しやすいという問題もあります。
今回私たちが採用したのは、低温真空抽出法という日本発の技術です。釜内に樹木のみを投入し、真空状態にすることで沸点を下げ、植物そのものが持つ有効成分や香りの成分を変えずに取り出す方法です。外部から水を加えないので、樹木の持つ細胞水だけを抽出するので腐敗しにくいところも利点です。
抽出されたクロモジの香りを嗅ぐとまさに比叡山の森に入った時のような感覚を覚えます。
〜樹木の香りの効果を今こそヘルスケアに役立てたい〜
植物から抽出した香りには、不眠解消作用、ストレス緩和作用、免疫向上作用など様々な働きがあることを知り、これを一生の仕事にしようと26年前に起業した本プロジェクトメンバーである川人紫は、医療分野にアロマセラピー (香りの療法)を導入する活動を展開してきました。
1997年設立の日本アロマセラピー学会では初代事務局長に就任。働きすぎで自らも大病を患いましたが、闘病中もひのきや杉など身近な香りに助けられたことをきっかけに、これからは日本の植物から抽出した香りを、様々な問題を抱える人たちのために役立てる事業に専念しようと決意します。
そして現在のコロナ渦。不安やストレスに悩む多くの人たちをケアできる日本の香りはと模索していた中で出会ったのが、本プロジェクトメンバーである比叡山(比良山系)の林業者小西でした。
〜比叡の森を守るために〜
比叡山は天台宗の宗祖である最澄が建てた延暦寺で有名な山であり、「伝教大師の御衣の森」と仰がれて今日にいたっています。仏教を修める者にとって、山は修行、学びの場であり、尊敬し守っていく大切な存在です。
延暦寺では昔から主伐と間伐を計画的に行い山林を保全、また時期が来た樹木を伐り堂塔修復の元資に役立ててきました。
この比叡山(比良山系)の一部の土地を先祖代々継承してきた小西は、物心ついた頃から両親に連れられて山の中にはいり、樹木に親しんできました。
しかし、成長するに伴い、山を管理していくのはいろいろな意味で問題があることにも気付いてきます。1本の木が木材として商品化されるまでには約50年かかると言われています。それまでの間に林業者は間伐を行うなどコストをかけて木の手入れをしていかなくてはなりません。
経済の常識から言えば経営として成り立たないのが林業なのです。
とはいえ林業は、経済的側面だけでなく、水質保全や防災など私たちの生命を守るための重要な役割を担っています。木材以外の用途が樹木にあれば、そしてそれが産業化として成り立っていければ。
そのような中で出会ったのが、心身の不調を回復させると言われる香りの療法アロマセラピーでした。
〜比叡山黒文字水の誕生〜
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